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2025-05-03

小説 貴志祐介 悪の教典

読んだ。

面白かったと思う。

なんだかんだ上下800ページ数日で読めた。

…いや下巻前半・中盤は結構読み飛ばしても問題ないなと傾向が理解できてたので完璧に読んだわけじゃないけど。

  

   

どんな話かあらすじを見ずに読んだけど、そういう話なのかーと。タイトルからバトロワみたいに「みなさんに殺し合いを教えてやる!体でな!」ってlessonな作品じゃないかなーと思ってたけど卒業直前の最後の授業って作品だったな。

  

  

面白かった点

主人公キャラ、それだけだろう。

殺人をも厭わないサイコキラー主人公視点を追っていく形は読み応えがあった。

まあ面白い点は「殺人鬼」ではなくて高知能な人間他者の(殺人を含めた)コントロールな部分だったから、教頭からタスクを上手くこなしたりいい教師を演じている部分に惹かれていた形だ。

その分「殺すこと」にフォーカスした後半は、生徒側の遭遇までの描写も増えたことによりやや魅力が減っていたが、ある程度(被害者側にも)工夫が施されていて読みきることができた。

殺人シーンが好きなら後半も加点だろうし、自分もそういうのが好きな部分もあるので人数で見ればかなり多い本作は満足できるものになっているだろう。

  

    

しか作品の魅力が主人公一人に集中したのはすこしばかりいただけない。ほかに特筆して好きなキャラといえば猫山先生ぐらいだった。

彼は四畳半神話体系の小津やバクマン。新妻エイジみたいに凄くアニメキャラクターで隙だった。CV吉野裕行

  

ああ、あとラスト、即座に合理的な善後策の選択として責任能力の有無にシフトしていく姿はとても"らしい"形でよかったです。

 

転機、顛末には不満

転機の不満

まず前提として、主人公殺しすぎ問題

彼には道徳的殺人はいけない、という縛りはなく、あくま手段でありリスクリターンを勘案したうえで躊躇なく実行するものであるのだが…。(と解釈していたのだが)

いくら自分疑義がかからない、かかってもアリバイがあるようにしているとはいえ、殺しすぎ。

必要に応じて、というなら両親などはわかる。うざったい動物を殺して除外するのもわかる。しかアメリカ同級生の仇の奔放な殺人や、はては前任地でも大量自殺があったにもかかわらず今回もあまりにも多くの学校関係者を殺しすぎてる。この公的な経歴で殺人低リスクである、という主人公判断共感し辛かった。

  

  

これで快楽殺人者ではない、は通じるのだろうか。むろん描写としては通じる。しかし、天才的な頭脳人物がほかに低リスク手段を思いつかなかったのか?

結果、前の学校含め多くの騒動によってただの高校生から疑惑の目を向けられることになっている。その核心に近づいた生徒も殺すことでイジェクトするとは安直だろう。

彼の内心の描写に「殺しすぎ」の懸念が、王国を築く目的のための障害としてほとんどなかったことは不自然と感じるほかない。

日常的な問題解決には信頼の醸成、脅しや懐柔、酔わせて事故捏造などがあるが、それでバランスをとってると読むよりは、それぐらいなにか、バリエーションが欲しいと思ってしまった。…殺しが少なかったら作品テーマからずれるか?いやしかし終盤の大量殺人は外れないから、「この主人公をして全員殺すしかかに手段はなかった」という道筋が欲しかったのだとおもう。本文を追うと「そうだよねこいつなら安易に全員殺して解決を図るよね」とやや機械な流れになった。

  

  

そうしたあまりにもハードルが低い殺人という解決手段によって物語崩壊する。

生徒との肉体関係の露見を恐れ、その生徒を自殺に見せかけ殺す…その前後を別の生徒に見られ言い訳が難しいのでとっさに殺す…とっさの殺人は隠し切れないため身代わりをでっちあげ前述したとおり自分以外を「全員殺して解決を図る」流れになる。

これが転機には不満。だろう。

  

   

(あまりにも不審という点は一部生徒や刑事からの懐疑で自己言及的になっているので意図的ではあるのだが…)

(アメリカ時代の回想など今に影響しない殺人自慢にしか見えず読み流したが必要だったのだろうか。いやにドラマ的だったし)

  

顛末の不満 裏切りのガッカリ

顛末としてはもちろん"全員殺してハッピーエンド"。にはならないわけだ。読者を想定外の形で裏切ることは読者の想定内であろう。

しかし本作で描かれたそのそれぞれが不満を感じる出来で、顛末に不満である

  

  

第一犯人バレの原因。

AEDの録音機能が原因。自分AEDに録音機能があることは知らなかった。また、調べるとあくまで一部機器にのみ搭載のようだった。

に、してもである主人公AED(を装着した生徒)を目視している。知能が高くあらゆる方面知識豊富主人公AEDの録音機能で致命的な崩壊をきたすのは、一言で言って「無知による敗北」としかいいようがない。

これは非常に違和感が残る。

ここまで読んだ読者ならば主人公が知らない知識があるほうが不自然である。当然、主人公なら一部AEDに録音機能があることに熟知しており"念のため"AEDを壊しておくことが自然だろう。

また、講習を受ける可能性がある(特別)教師という立場や、殺人に関与しそうな命に関わるAEDという機器殺人者という立場から知識が乏しかたこともひっかかる。

AEDの録音が証拠になるとしても、** 主人公の視界に入れるべきではなかった。 **

  

  

順番が前後して第三に、ラストラスト最後生存者の原因。

AEDを念のため壊さなかったことと同様に、当初の目標自殺に見せかけて屋上から落とした生徒の生死を確認しなかったのもこれまでの主人公としては稚拙しかいいようがない。直後に自体が急転して一人も逃さず殺す算段をつけなければならない逼迫した場面になってしまうが、道中はまだしも全員殺し終わったあとの証拠隠滅中も彼女のことは頭をよぎらない。彼女に対しては自分でも分からない特別感情があったため無意識死体確認を避けた、という擁護は成立する。しか彼女生存はそのまま身の破滅であり、生徒全員を殺し死体打ちまでする徹底さに比して殺害前の一瞬の躊躇のみで推し量れ、だとするといささか描写不足ではなかろうか。

親愛していた人に殺されかけた彼女存在・心情はこの作品ラストを飾るものとしては非常に重大ではあるが、やはりこの主人公でこの顛末、は不満である

  

  

第二に、主人公に勝った生存者の原因・描写

殺されたが実は生きていたラストサバイバーとは別に主人公の裏をかき生存した生徒もいる。

それ自体はいい。手法もいい。しか描写はよくない。

まあトリックのためのギミックが登場した時点でオチへの道筋予測できた。実行の場面の描写でもそれは99%確信に変わる描写だった。なんなら前振りも丁寧だった。

その後、主人公がそのギミックのある場所に行くシーンがあるが、

そのギミックに不自然な点があることが地の文描写されていた **

それをもって読者への「ここで説明してましたよ」とオチへのヒント提出の義務きっか完了している。

しかし、この作品はほぼそのとき人物主人公視点描写されている。

まり地の文で書かれたということは主人公の視界にもそれが納まっていたはずだし、経緯からしてそこに主人公が目を向けるのも当然である

とても知能が高くとても知識がありとても観察眼もある天才的な主人公が、またもやこの不自然な点を「見落とす」。とてつもなく不自然だ。

これでは生徒が主人公の裏をかき勝利したことにならない。ただの主人公エラー起因の失点だ。

このせいで本来得られるはずの生存から告発というカタルシスが一切摂取できなかった。

  

  


上巻すべてを費やし描写してきた天才的な、完全無欠の主人公が、下巻になると短絡からまりまらないミスから全てが綻び、人の些細な機微すべてを見通す目が不自然さを見落とし証人を生み、豊富知識の網目をすり抜けた証拠で罪が明らかにされる。当初の目的すら達成できていなかった。

この展開に満足できた人はいるのだろうか。いるのだろう。それが大多数だろう。だってももらってるし映画にもなっている傑作だ。どういう風に読んでいたのか、他の人の感想を知りたいものだ。

  

トラバにつづく

  • 下巻のサイコ・ホラーへの転換 上巻400ページを使ってこの作品は「人を殺していく殺人鬼を見るホラー」なのだなと諒解したわけだが、後半になるとなぜがその紙幅のほとんどが生徒...

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