カメレオン・ライム・ウーピーパイの2ndアルバム「Whoop It Up」がリリースされた。
“仲間”のWhoopies1号、2号とともに活動するChi-のユニット、カメレオン・ライム・ウーピーパイ。2023年5月に1stアルバム「Orange」をリリースしたのち、アメリカ・テキサス州オースティンの複合イベント「SXSW」への2年連続出演を果たすなど、国外にも活躍の場を広げている。そんなCLWPにとって2年ぶりのアルバムとなる「Whoop It Up」は、Chi-のルーツでもある1990年代のさまざまなジャンルの音楽からの影響を色濃く反映した作品で、RIP SLYMEのPESをはじめ、さまざまなアーティストとのコラボ曲も収録されている。本作のリリースを機に、音楽ナタリーはChi-にインタビュー。「Orange」リリース以降のモードの変化なども踏まえつつ、「Whoop It Up」の制作秘話を語ってもらった。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 入江達也衣装 / WONDERヘアメイク / 竹内未夢
いや、でもやるしかないでしょ
──カメレオン・ライム・ウーピーパイは、2023年5月に1stアルバム「Orange」をリリースしました。それ以降いろいろな変化があったかと思いますが、この2年間はどのように過ごしていましたか?
アルバムを引っさげて東京と大阪で初めてのワンマンライブをやって、海外含めいろいろなところにライブをしに行って、今年に入ってからは初の自主企画ライブ(「カメレオン・ライム・ウーピーパイ presents “BANANA” vol.1」)を開催して……まだやったことのなかったことにひと通り挑戦した2年間でしたね。
──いろいろな挑戦をする中でどんなことを感じましたか?
ライブではすごく手応えを感じられたし、褒めてもらえる機会も、聴いてくれる人の数も増えてきていて。昔に比べると、カメレオン・ライム・ウーピーパイを取り巻く状況は徐々によくなってきていると思います。だけど、まだ“種を蒔いている時期”なのかなと感じることが多かったですね。「これでどうだ!」って曲を出してみても、「なかなか響かないな」と感じることが多かったというか。
──手応えはあったけど、同時に「いや、もっとたくさんの人に届くはずだ」と思っていたと。
「もっと多くの人に聴いてもらえたら」という気持ちは前からずっと持っているんですけど、その気持ちがさらに強くなりました。曲を作るたびに新しいことに挑戦している分、せっかくなら多くの人に届いてほしいし、状況がよくなってきているからこそ、「これくらい届いたらいいな」という目標も、自分たちのやる気もどんどん大きくなってきているんです。「そのためには、こうしたほうがいいかな」といろいろなことを考えたり試したりした2年間だったし、「あれもやりたい、これもやりたい」という欲がどんどん出てきて。それで「まだまだ足りない」と感じることが多かったんだと思います。
──ということは、「まだまだ」というのはネガティブな意味ではなかったんですかね。
うーん。落ち込んじゃうことも多かったですけどね。「ほかのアーティストがアルバムを出したあとにやるようなことをひと通り経験したはずなのに、なんで私たちの音楽は届かないんだろう?」「ほかの人たちと何か違うってこと?」「何が足りてないのかな?」って。1stアルバムを出した2023年はワンマンとかがあったけど、去年は今回出すアルバムの準備期間という感じで、リリースも3曲しかしていなかったから、めちゃくちゃモヤモヤしていたんですよ。「自分たちは曲も映像も自信を持って作っているのに、どうしてうまくいかないんだろう?」って。ここ1年くらいは「とにかく活動を続ける」ということを大事にしつつ、気持ち的にはけっこう落ちてました。正直に言うと、自分のマインド的にはギリ続けられた感覚というか。深く病んでいるというよりも、ずーっと薄暗い感じ。今までで一番ギリギリだったんですよね。
──そうだったんですね。
だけど、最近はまたやる気が出てきていて。落ちれば落ちるほど、もう一度上がってきたときはすごく強気になるというか。「いや、でもやるしかないでしょ」みたいなマインドになるんです。
テーマは90年代
──“落ちれば落ちるほど、ポジティブなほうに向かうエネルギーが強くなる”というChi-さんの性質は、今回のアルバムに表れているなと思いました。「最悪な運命は全く気のせい」と歌う「Cranky」、「素敵な世界は 間近 それならまだ 枯れずにいよう」と歌う「Flower」など、ポジティブな歌詞も多いですよね。
確かに、ポジティブワードがちりばめられたアルバムだと思います。
──「Growing」の「幸せになるごっこ」というフレーズも印象的でした。
捉え方によってはひねくれているように聞こえる歌詞だけど、自分としてはポジティブなイメージで書きました。幸せって誰にも計れないから、この世界を俯瞰したら、みんなが“幸せになるごっこ”をしているように見えると思うんですよ。だけど、本人が死に際に「幸せだったな」と思えればそれでいいんじゃないかと考えながら、この歌詞を書いたんですよね。
──なるほど。
この1年モヤモヤしながらいろいろなことを考えたけど、そもそも自分は好きなことじゃないと続けられない性格で。好きじゃない音楽をやって、もしもそれが広まったとしても、心は全然満たされないというか、幸せになれないと思うんです。じゃあ、好きなことをとことんやってみようと。そんな感じで、今回のアルバムは「自分たちの好きなことをとにかくやろう」「90年代をテーマにしよう」と言いながら作り始めました。
──そうして「時空を超えて騒げ!90年代から現代、海を超えてごちゃ混ぜに!全人類の心を躍らせる」というアルバムコンセプトに行き着いたんですね。
1stアルバムを作ったときも90年代の音楽からうっすらと影響を受けていたんですけど、今回は90年代からの影響をもっと濃く出していこうということで、UKロックとか、今までやってこなかったジャンルも取り入れました。あと、この2年間たくさん考えたけど、私はまだ「躍ろう」って言っているなと思って(笑)。私はずっと「カメレオン・ライム・ウーピーパイでみんながめちゃくちゃ躍っている世界を見てみたい」と思っているし、「どれだけ考えても伝えたいことはこれなんだな」「やりたいことはこれからもブレないだろうな」と、このアルバムを作ってみてわかりました。
こんな人になりたくなかったはずなのに!
──「全人類の心を躍らせたい」という気持ちはずっと変わらない一方、自分がどういう音楽に心が躍るか、どういう音楽で人の心を躍らせたいと思うかは、時期ごとに変化していますよね。
そうですね。今回のアルバムに関しては、Whoopiesの2人とほぼ毎日作業部屋で集まって、しゃべりながら制作できたのが大きかったです。私は「なんか違うな」と思ったらすぐにやる気がなくなっちゃう性格なので、少し時間が経つとやりたいことが変わって、今作っている曲に興味がなくなっちゃったり、新しい曲を作りたくなっちゃったりするんですよ。だから今回、「この音色は違うんだよね」「もっとゴリゴリした音じゃないと」みたいなことをその場で伝えながらトラックを作ってもらえたのはすごくよかったし、自分のアイデアがすぐに反映されるのが楽しかったですね。Whoopiesの2人も「Chi-さんから新しいアイデアがどんどん出てくるのが面白い」と言ってくれたし。そんな感じで、制作はわりとポンポン進んでいきましたね。「Donkey Song」だけはけっこう手こずりましたけど。
──今までやってこなかったUKロック色を取り入れた曲って、「Donkey Song」のことですよね。
そうです。私はヒップホップばかり聴いてきたので、ロックはそこまで通っていなくて。「UKロックってカッコいいな」となんとなく思っていたものの、自分たちがこういう曲をやるうえでロックのカッコよさをどう表現するべきか、イマイチわかっていなかったんです。最初にできたバージョンは、「みんな聴いてくれよ」みたいなテンションの曲で。カメレオン・ライム・ウーピーパイがやるにしてはわかりやすすぎるし、なんだかしっくりきませんでした。そういうところからスタートしたので、「これだったらいいね」と思えるバランスに行き着くまでに時間がかかりましたね。ギターの音色を何パターンも試したり、サビを作り直したり、歌詞を全部書き直したり。できあがっては壊して、ということを何回もやりました。
──そのエピソードを知ると、「どーにかなっちゃえばいーの くたばれ理想よ 壊してよ Mr. Donkey Kong」というサビの歌詞がより味わい深く感じます。
最初に書いた歌詞はもっと説教臭かったんですよ。たぶんモヤモヤしていた状況から一気にやる気を出したから、肩の力が入りすぎて、凝り固まって、やる気が出すぎているような歌詞になっちゃったんでしょうね。曲を作るときはいつも「自分らしく」「自然体に」みたいなことをふんわり意識しているんですけど、夜中にその歌詞を見たら「ヤバい、よくあるようなことを歌ってる!」「私はこんな人になりたくなかったはずなのに!」と思ってしまって。急いで全部消して、イチから書き直したら、最終的に“ゴリラ曲”になりました。ゴリラ曲ってなんだって感じですけど(笑)、自分たちらしくて気に入っています。
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謎の自信がずっと続いてる