第3話 この勇者、やる気なさすぎる!
「たのむからぁぁ! 起きてよ、颯真ぁぁあ!!」
勇者専用の豪華な寝室で、私はベッドをこれでもかと揺らしていた。ガタガタガタガタ! もう地震レベル!
それでも、当の本人は仰向けで大の字。完全に熟睡モード。
「ちょっと! 布団と一体化しないでよぉぉぉ!!」
その寝顔、清々しいほど無防備! いや、むしろ清々しすぎて腹立つ!
「世界が大変なの! 魔王が復活寸前なの! ゴブリンが村を襲ってるの! そのうえ今、アンタが寝てるの!!」
怒涛の三段活用ツッコミを叩き込んでも、颯真は「すぅ〜……」と幸せそうな寝息を立てたまま。
「……このまま昼まで寝る気!? いい度胸してるじゃないの……っ!」
バッと布団を引っぺがすと、颯真の手が無意識にそれを奪い返してきた。
「うわ、布団への執着が異常ぉ!!」
抵抗しながらも、私はようやく最後の手段を決意した。そう、王女の威厳を賭けた“最終奥義”――。
「いいわね……颯真。目覚めないなら、この私が――」
ずいっ!
「耳元で延々と“可愛い動物の鳴きまね”してやるわよッ!!」
ぷるぷる震えながら猫の鳴きまねを始めた瞬間。
「にゃ〜……ごろごろ……にゃ〜……」
颯真はパッと目を覚ました。
「よかったぁぁ……! このまま永眠するんじゃないかと本気で心配したわよ、もう!」
けれど、颯真はまるでゴミでも見るような顔で――
「なんの真似だ」
私の渾身の演技をバカにしてきた。そして、布団を奪い返しながら冷たく言い放った。
「出てけ」
「えっ、ちょっ……ええぇぇぇぇぇぇぇ!? この私に! 王女に! 寝起きで『出てけ』って言ったわね今!?」
思わず私の声は裏返った。信じられない! 寝起きワードが罵倒ってどういう神経してるのよ!
「俺の睡眠、邪魔した罰だ」
「こっちが罰ゲームみたいな扱い受けてるんですけどぉぉぉ!!」
もう、限界! ルミナ、爆発寸前!
「いい加減にしてよ! ゴブリンよ!? ご・ぶ・り・ん! 村人が逃げ惑ってるの! すぐに向かわなきゃいけないの! っていうか勇者でしょアンタ!」
「……めんどい」
「はい今の! 今の台詞、勇者として完全アウトー!!」
私の叫びをよそに、颯真はのそのそとベッドを降りた。ぐしゃぐしゃの寝癖、半分開いた目、そして——
「着替える」
「えっ……?」
一瞬、耳を疑った。え、まさか、やっとやる気を――
「このままだと、昼飯に間に合わない」
「そこかーーーーーい!!」
怒鳴った拍子に足を滑らせて私はベッドに顔から突っ込んだ。バフッ! 羽毛の香りに包まれながら、思わず涙が出そうになる。
――……なんなのよこの男! 真面目な顔して、理由が毎回ふざけてる! それでも行く気にはなったの、私の“にゃ〜”効果なの!?
「ふふっ、ルミナ様、今日も元気ですね」
いつの間にか現れた侍女のミーナが、にこやかにそう言った。
「……ちがう、これ元気じゃなくて“被害”なのよ……」
私の胃、すでにゴブリンより深刻――!
その後、颯真はのっそりと制服のような戦闘服に着替え始めた。いや、正確には、服を前後逆に着ようとしていたので、私が慌てて止めた。
「ちょ、前後逆前後逆! 襟が背中に行ってるから!」
「ほざくな。一緒だろ」
「服に対する冒涜ぉぉ! 何その雑な思想、どこで育ったらそんな感性になるのよ!」
やっとまともな装いになったと思ったら、今度は剣を肩に担いでどっかりと椅子に腰を下ろす。
――えっ、今度は何!? 出発じゃないの!?
「……なにしてるのよ」
「案内しろ」
「なぜそんなに偉そうなのよぉぉぉお!!」
心の中でつっこみ三千連発! それでも、なんとか落ち着こうと私は深呼吸した。
――冷静になって。ルミナ、あなたは王女。もっと優雅に、気品を持って。この世界の未来を担う者として、威厳を……
……ぷすん。
胃から変な音が鳴った。もう限界だ。ほんと、今すぐ胃薬ほしい。
「……わかったわ。じゃあ、案内するからついてきて。お願いだから真面目に歩いて!」
「善処する」
「って、えぇ!? 普通に歩くことすら“善処”しなきゃできないの!? アンタのスペック、人間としてギリギリじゃない!!」
振り返って見ると、颯真はあくびしながら立ち上がり、まるでお昼寝の続きを探すみたいな足取りで、私の後をついてきた。
なのに――
通りすがりの侍女や騎士たちが、彼を見る目が……なんだかやたらうっとりしている。
「さすが勇者様……」
「歩き方に風格があるわ……!」
――な、な、な……なにがよっ!? どこにそんな評価ポイントがあったの!? 絶対ただの寝不足ダル歩きじゃないのよそれ!
でも、これが《勇者補正》……やってることは限界サボり魔なのに、なぜか周囲からは“正義と威厳の化身”みたいに見えてしまうという理不尽スキル。
私だけが見えてる、この男の“真実”が悔しい……!
隣を歩く颯真は、まだ半分寝てるような顔で、「ふあぁ」と気の抜けたあくびを漏らしている。なのに、背後からは拍手喝采が聞こえるレベルの熱視線!
「……なんで私だけがツッコミ役なのよ……!」
胃がキリキリする。けれど、世界のため、民のため、そして……このポンコツ勇者をなんとかするためにも、私は歩みを止めない。
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異世界転移したけど、世界征服しか興味ねぇ。〜この勇者弱いくせに傲慢すぎるぅぅう!〜 エリザベス @asiria
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