第5話 幼馴染は気づいてしまう(side:みのり)

『おかしい…こんな筈じゃなかったのに…』


先日、幼馴染の誠の告白を断った。それから高校に入って仲良くなったクラスメイトと遊びに行ったり、イケメンの部類に入る男の子たちと話したりしていても何かが違うと感じてしまう。


何をするにしても「誠だったらこうしてくれるのに」と比較してしまう。あたしが求めたものは何の事はない、ただ隣の芝生が青く見えただけだ。その結果、かけがえのないものを手放してしまったのだ。


離れてみて初めて分かった。誠の隣にいるのがどれだけ居心地が良かったのか。


だからと言って誠に対して恋愛感情が生まれたかというとそういうわけでもない。でも今は誰かに誠を奪われて、その居場所を取られてしまうのは許せない。


恋人同士にはなれなくても、謝ったら元の幼馴染には戻れるだろうか?あたしに甘い誠の事だ、きっと許してくれるだろう。


すぐ2つ隣のクラスに行って頭を下げて来るだけだ。そう思っていたはずなのに、あたしの足は鉛のように重かった。


『…あんな振り方しておいて、どの面下げて顔を合わせればいいのよ…』


あの時なんで『金輪際つきまとわないで』なんて言ってしまったんだろう。自身の軽率さが悔やまれる。


『誠…どうしてるかな』


授業中もずっとその事で頭を悩ませていると、気付いた時には既に放課後だった。勇気を出して立ち上がり、誠のクラスに向かおうとするも結局足がすくんで椅子に座り込んでしまう。


今までのあたしなら誠に絶対に嫌われないという自信があった…でも今は?誠に謝りに行ってどんなに怒られても許してもらえるならいい。


万が一、あたしがしてしまったように誠から拒絶されてしまったら?その可能性を考えるだけで胸が押し潰されそうになってしまう。


踏ん切りがつかずにいる内に、教室内にはあたし1人だけになっていた。時計を確認すると、帰りのホームルームが終わってから30分以上が過ぎている。


『もう誠も帰っちゃったよね…あたしも…帰ろ』


言い訳がましく呟いて、席を立つ。その瞬間、勢いよく教室の扉がガラガラッ!と音を立てて開いた。


『あれ?みのりじゃん。まだ帰んないの?』


『う、うん。ちょっと考え事してただけ。今ちょうど帰るとこだよ』


『そうなんだ?私は机の中にスマホ忘れちゃったの気付いてさー、部活の休憩時間に抜け出して探しに来たってわけだよ。あ、あったー…良かった♪』


比較的仲良くなった友達の1人。確かバスケ部だったかな?彼女もまた部活に戻るだろうし長居しないで帰ろうとした時、彼女から気になる話を聞かされた。


『そういやみのりの幼馴染ってA組だったよね?』


『う、うん。それがどうかしたの?』


『やっぱりそうかー。あのさ、A組に高井戸グループのお嬢様が居るじゃない?』


それぐらいはあたしでも知ってる。このクラスでも話題になるぐらいの有名人だし。


『A組の子に聞いたんだけどさ。ここ何日かそのお嬢様とみのりの幼馴染クンが、放課後教室で2人きりで居るらしいよ?』


『…は?え、それ、ホント?』


『うん、何してるかまでは見てないらしいけど…男女でわざわざ2人きりの教室に、って時点でそういう関係なんだろうなーって思っちゃうよね』


何、それ?あたしに告ってからまだ1週間と少ししか経ってないのに…もう別な子と?


『もしかしたら今もA組に2人いるかもね?』


『ごめん、私用事を思い出した!じゃあね』


さっきまで頑張っても動かなかった身体は、焦りと怒りをないまぜにした感情に突き動かされ、真っ直ぐA組のクラスへと向かって行った。


教室の扉を前にすると、中からは話し声が聞こえてくる。間違いなく誠の声だ。


「そんなに口だけじゃなくて手を出して欲しいんなら、お望み通りにしてやるよ」


誠が何を言っているんだろうと頭の中が一瞬真っ白になった。でも次の瞬間、あたしは勢いに任せて教室の扉をおもいっきり開け放った。


『ま、誠?あんた、何してんのよっ⁈』


「………みのり?」

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