家族の温もり
「本当に良かった!
目を覚さないから心配したんだぞ」
「あ……」
兄さんは私の無事を確認すると、ハグしていた腕を離して私と距離をとります。
その事を名残惜しく思って思わず声が出てしまいました。
「それにしても一体どうやって俺の場所を見つけたんだ?
いつの間にか部屋に潜り込んでベッドに入ってるし……管理会社の人に連絡でもしたのか?」
「え、あれ……これって現実ですか?」
ここまで言われてようやく私の意識もハッキリしてきました。
「当たり前だろう?
まぁ、知らない間に俺の部屋で寝ていたのは非現実っぽいけどな」
辺りを見渡すと全く知らない部屋に私はいました。
ワンルームの狭い部屋の中、目の前には夢の中で兄さんと確信した男性。
「貴方は本当に私の兄さんなのですか?」
「頭でも打ったのか?
いつもならお兄ちゃんって呼んでたし、そんな丁寧な言葉も話さないのに」
「あの……私の名前って分かります?」
「変な事を聞くやつだな。
華恋だろ?」
「兄さんの名前も聞いて良いですか?」
「ああ、それで満足するならいくらでも教えてやるよ。
俺の名前は蓮華だ」
れんげ……その名前には聞き覚えがあります。
両親が息子が生まれたらつけようとしていた名前。
しかし、その前に亡くなってしまったので、次の子供である私は漢字こそ違うものの、れんという言葉を引き継いで華恋と言う名前になったのだそうです。
「本当に兄さんなんですね……うう、うわあああああああ!!」
何故かは分かりませんが、目の前の人物は本当に死んだはずの私の兄なのだ。
そう確信した瞬間に私の心の糸は切れ、彼の胸の中に飛び込んで大声で泣いてしまいました。
ですが、兄さんは何も言わずに私を優しく抱きしめ、片手で頭を撫でて、もう片方の手で背中をさすってくれます。
それはずっと私が求めていた家族の温もりでした。
「兄さん!私、頑張ったんです!
たくさんたくさん家族のためにって頑張ったんです!!」
「……そっか。
華恋は本当に頑張ったんだね。
今まで辛かったよね……でも、大丈夫だよ。
ここには家族という言葉を便利に使って華恋を利用しようとする人はいないから」
「兄さん!兄さん!!」
私は何度も兄さんと叫びながら彼の胸の中で涙を流していました。
今考えれば、この時既に私の正体に気付いていたのでしょう。
そうでなければ、何も話していないのにこんなにピンポイントで私の状況を言い当てることなど出来るはずないのですから。
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