微睡む意識の中で夢を見ました。


誰かが私の名前を叫んでいます。


必死に縋りつくような声で。


最初はその人の顔さえ認識できなかったのですが、段々と鮮明になっていき、その人の……男性の顔を見る事ができました。


初めて見る男性……でも、何処か弟と似た雰囲気を持っている気がします。


ただ、その男性の方が私よりも少しだけ年上な気がしますね。


この男性の事は全く知らない……知らないはずなのです。


しかし、私の口からは勝手に予想外の言葉が飛び出しました。


「兄さん」


いま、私は彼のことを兄と呼びましたか?


そう言えば聞いたことがあります……私が産まれる4年前に兄が産まれていたと。


しかし、彼はこの世に生を受けても全く泣かず、どんなに処置を施しても呼吸を始めずに死んでしまったそうです。


恐らく、私に対して教育熱心になった背景にはこのことも関係しているのでしょう。


そんな死んだはずの兄さんが、まるで生きていた時と同じ姿で目の前にいます。


兄さん……長いまつ毛にパッチリとした二重。


日本人離れした高い鼻に茶色い短髪のイケメンですね。


正直、私の好みのドストライクです……こんな兄さんがいたら私は重度のブラコンになっていた自信があります。


彼女なんて絶対に作らせません。


休日はいつも私とデートしてもらうのです。


……あら、そう考えると謎の人物だった兄さんにとても強い親近感が湧いてきますね。


死んだはずの兄に見守られながら死への階段を登る、中々悪くない気分です。


……しかし兄さんはいつまで私の名前を呼んでいるのでしょうか?


ひょっとしてあの世から迎えに来たとかいうやつですかね?


それならばと身体を起こそうとグッと力を込め、閉じていた目を開きます。


「うわ!?」


その瞬間に私は現実へと引き戻されてしまいました。


実際に身体は起き、開いた目からは見慣れない部屋と、先程まで名前を呼んでいた兄さんが目の前にいました。


「あれ……兄さん?」


「良かった!

目が覚めたんだね!?」


兄さんはそう言うと私の体を抱きしめます。


優しく包み込むようなハグ……心から安心感を得られることが出来ました。


私も思わず兄さんの背中に手を回して抱きしめ返してしまいました。


私はまだ夢の続きを見ているのでしょうか?


夢ならばどうか醒めないで……このまま穏やかな気持ちであの世へと逝かせてください。

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