第11話求む、平和
学園は平和だった。
工藤先輩という不安因子が消え去り、多少の寂しさは残るものの、学園はいつものように平穏な日々を俺達に提供している。もう誰かが苦しむことはないのだろうと思うと、自分のやったことは正しいのだと少しは自分を肯定できる。
工藤先輩の取り巻きだった女たちは散り散りになり、親衛隊だった者も今やその形を失った。周りからは白い目で見られているが、まぁ自業自得だ。恋は盲目とは言ったものだが、ここまでくると愚かとしか言いようがない。もはや擁護の余地もないだろう。
静香はあれから見ていない。立場を追われて学園に来ることを拒んでいるのだとか。もはや俺の知ったことではないのだが。
平和とは、なにかの上に成り立っている。犠牲、悪、秩序。あいつの平和は悪の上に成り立った脆い平和だったのだ。残念ながら、そういうものは長くは続かない。泥船の乗りかかったあいつが馬鹿だったのだ。
一仕事終えた俺の身体は軽かった。悩み事がすっと消え、心に広がるのは晴れ晴れしい気分。鼻歌の一つでも歌ってやりたい気分だ。
しばらくは平和な日々を楽しもうと思う。誰かと関係を持つことも人生においては良い刺激だが、一人の時間だって必要だ。時には休み、来るその時まで身体を休めることも大切だ。今は休養を優先すべき。今日のところはすぐに帰って好きなことでもするとしよう。
あぁ、最近は好きだったゲームもしばらくやっていない。明日は休日だし、帰って明日の朝までやるのも悪くないな。それか久しぶりに友達と……
「なーれんぴょん。きのことたけのこどっち派ー?」
「漣、枕になるものない?机じゃ硬くて寝れないわ……」
……そうだった。平和ってのは案外脆い。その脆弱性はもとからあるものだった。だからこそ平和は美しいのだ。
平和の崩壊はいつだって突然だ。この席になってしまった俺に平和など訪れないのかもしれない。
「……たけのこ派だよ。枕はない。お前家で寝て来いよ」
「寝てるけど眠いからこうなってんのよ。ないなら膝枕でもして頂戴……」
そう言って凜々花が無理矢理俺の膝の上に頭を預けてくる。彼女の絹のような頭髪がさらりと俺の膝の上に広がった。
「……硬い。筋肉質」
「そりゃ男ですから」
「貴方、もっと太った方がいいわ。これじゃ机と大差ないもの」
「お前には言われたくないな」
「私のは美のためだもの。それに、いたって健康だし」
「健康な奴は四六時中眠気に襲われてたりしないんだよ。……おい、寝るな。凜々花さーん???」
こいつ、文句言うくせに人の膝の上で寝やがったぞ……休み時間あと5分ぐらいしかないんですけど。それにこいつ無理矢理起こそうとすると機嫌悪くなるんだよな……
凜々花の穏やかな寝顔を改めて見てみると、整った顔立ちをしている。三女神とあがめられているぐらいなのだから、当然と言えば当然なのだけれど、このレベルで顔が整っている奴はそういないだろう。
「……なによ。人の顔をまじまじと見ちゃって」
「お前寝てたんじゃなかったのかよ」
「そうしたかったけど、寝心地が悪すぎるわ。もう少し枕として精進して頂戴」
「誰が枕だよ。……授業中ぐらいは起きてくれ。お前起こすの結構大変なんだぞ」
「要検討ね」
「…」
「…?どうした胡桃?俺の顔に何かついてるか?」
「あっ、いやっ、えっと……仲いいんだなって」
「あぁ……まぁ、一応な」
「なによ一応って。……親同士が仲が良くてね。何かと会う機会が多かったのよ。中学も同じクラスだったし」
「へぇ~、漣くんと凜々花ちゃん、ずっと一緒だったんだ」
「残念なことにな」
「光栄に思いなさい。私とこんなに長い時間を共にしているのは家族を除いて貴方以外存在しないのよ?」
「お前は手がかかるから一緒にいると大変なんだよ。もうちょっと俺に平和な日々を楽しませてくれ」
「無理な話ね。私、貴方の困った顔結構好きなの」
そう言って悪戯に笑う凜々花を前に、俺は頭を抱えるばかりだった。
「……いいなぁ」
「え?」
「いや、何でもない!……あっ、そういえばさ、今日の放課後生徒会の仕事で部活動の部費の計算をしなくちゃいけないんだけどさ、人手が足りてなくて……手伝ってくれない?」
……もう一度言おう。平和とは、突然崩れ去るものである。
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彼女をNTRされてしまった俺、三方向から美少女に攻められる。~俺の周りの席が三女神で固められているんですが~ 餅餠 @mochimochi0824
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