すれ違うすべての人に自分と同じだけの事情と感情が詰まっていると思うと、世界の湿度が高まったような気がしてしまう。それだけ誰にとっても生きることは大変で、ままならないのだろう。誰もが主人公だ、なんてセリフは詭弁だけれども、全員脇役だ、というのも暴論すぎる。世界の真ん中には誰もいない、すれ違うすべての人間がただ生きているだけだ。本作を読み終えてそんなことを考えた。
誰もが自分の人生を生きていて、誰かの人生の分岐点に偶然自分が居合わせてしまうことが起きうる。それを私たちは忘れている。私たちは自分のことしか考えられないし、誰かの背負う課題まで想像するきっかけをもらっているのかもしれないけどそのきっかけを活かしている人がどれだけいるのだろうか。この作品を多くの人に読んでほしい。