連合国

 弟ヒコは噛みしめていた。これが幸せの絶頂というものだろう。

 周囲のクニは姉ヒメを恐れ、敬っていた。自分は、そのヒメに直接会うことのできるただ一人の男である。皆が、ヒメとの接点を求めて接してくる。


 周囲がヒメを恐れるのは、わけのわからなさが理由だったと思う。


 内陸へ追いやられた集団からはぐれてしまった数人が、原住の民に出会った。たまたま、彼らは祭具を持っていた。その祭具を見て、原住の民は、最高の稀人として迎え入れた。迎え入れてみれば、その稀人は、住居の強度を高める方法や食料の貯蔵方法などの知識も有し、邑の安定につながった。そんな始まりだったのだろう。


 静かに、だが確実に発展するその様子を見て、大陸の元貴族のクニグニは、祭具を用いた妖しい祈祷によるものだと自分たちを納得させたに違いない。

 ヒメには何か特別な力があって、争う前にほかのクニに災いをもたらすことができるに違いない、その誤解が畏怖をもたらしていた。


 自分には何もない、弟ヒコはよくわかっていた。

 その何もない自分に、皆が跪く。だが、反面、心の底では侮られていることもわかっていた。姉ヒメを持っていること、それがすべてだ。


 この連合国家のすべてを掌握しているわけではない、むしろお飾りだ。それぞれのクニは、みずから力をつけている。小競り合いが少なくなったせいで、その勢いは増している。

 いつ寝首を掻かれるか、その不安には蓋をして、権力の絶頂を噛みしめていた。


 一方、彼女は変わらない憂鬱の中にいた。


 求められるままに、子どもたちに知識を与える。その時間は確かに癒しではあった。が、根本的な何かが変わることはない。 閉じ込められ、人目をはばかる毎日。気が付けば、もう何度も春も夏も秋も冬も、訪れては去っていった。

 

 たまに、新しく手に入れたという鏡や玉などが多数持ち込まれ、配下のクニグニに渡す前に祈りを捧げろと言われる。同じように、集められた奴婢や絹に対しても、無事に大陸に渡るように祈れと言われる。


 どうでもよい。


 望まれるままに、祈りの形は行う。だが、心を乗せることはない。


 

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