魔眼と聖眼の最強極悪貴族は悪役ができない!~魔眼と聖眼の能力に気づかず死ぬ悪役貴族に転生したんだが、実は超重要な隠れ主人公だった件。本編が始まったら悪役の俺より主人公たちが悪役化してるんですけど!~

佐松奈琴

第1章 12歳の悪役貴族(原作本編開始前)

プロローグ 前世での最後の甘い思い出!

与志原よしはらくん、ちょっといいかな?」




 そう俺に声を掛けてきたのは、クラスのマドンナ、椎野しいのゆめの。


 この日もトレードマークである黒髪ラビットツインテールがツヤツヤ輝いている。


「ごめん、これから速攻で帰ってゲームしたいから、悪いんだけどまた今度ね!」


 俺がそう返すと、椎野ゆめの は唖然あぜんとした顔でこちらを見つめながら、こう言ってきたのである。


「・・・・・・与志原くん、私より優先したいゲームって、一体どんなゲームなの?」


 うわ、とんでもない高飛車発言!


 さすがはクラスのマドンナだ!


 対する俺は陰キャぼっちのゲームオタク。


が出てくる『サーザント英雄伝』っていう超大作学園アクションRPGだよ」


「・・・・・・悪役貴族って何?」


 悪役貴族を知らない?


 とても信じられないが、この顔は本当に知らない人の顔だ。


「悪役貴族っていうのは、主人公を持ち上げるためだけに存在する噛ませ犬的存在で、大抵は驚くほど傲慢で怠惰で愚かな嫌われ者なんだよ!」


「へー。与志原くんとはだね」


 うん。


 確かに・・・・・・そう言われてみると・・・・・・。


 でも、だからこそ俺は・・・・・・。


「そんなつまらなそうなゲームより絶対に私といた方が楽しいよ!」


 ん? 


 私といた方が楽しい?


 なんだこの展開は?


 確かに椎野ゆめの とは小学2年生から知っている仲だが、今やクラスでの立場は天と地ほどの差がある。

 

 彼女にとっても俺なんかと関わらない方がいいに決まってる。


「椎野さん、君は確かに美人さんだよ。でも、俺は『サーザント英雄伝』に出てくるに立ち向かう銀髪 碧眼へきがんの高貴な美少女とか、その悪役貴族を陥れる燃えるような赤い髪と紅い瞳のボンキュッボンのスタイル抜群のお姉さんとかがタイプだから、正直君のことはなんとも思わないんだよ!」


 

 ――バチンッ!



 「ふぇっ?」


 突然クラスメイトに平手打ちされて、俺は驚きのあまり、ついそんな変な声を出してしまった。


「与志原くんのバカ! せっかく付き合ってあげようと思ってたのに! この根暗のゲーム廃人! さっさと死んじゃえ! ・・・・・・嘘。・・・・・・ほんとに、ほんとに、昔から好きだったのに。・・・・・・もう、絶対後悔させてやるんだから! 明日、そのゲームのキャラのコスプレで登校して絶対に好きって言わせてやるんだからね! その時付き合いたいって言っても・・・・・・もう遅いんだよ! ・・・・・・って、これも嘘! 嘘だよ、与志原くん!」


 俺はそのあまりの情報量の多さに混乱してしまい、ついこんなことを口走ってしまったのだった。


「・・・・・・えっと、嘘って一体どれが嘘なの? コスプレで登校してくること? それとも俺のことが好きって言ったこと? それとも後で付き合いたって言っても遅いって――」



 ――バチンッッッ!



 「ふぇっ?」



 椎野ゆめの は、俺のもう一方の頬をさっきよりもさらに強く平手打ちしてきた。


「椎野さん・・・・・・」


「それ以上何も言わないで! じゃあ、与志原くん、また明日!」


 椎野ゆめの は一方的にそう言うと、俺を誰もいない教室に置き去りにしていなくなってしまったのだった。



 あの次の日、椎野ゆめの は本当に『サーザント英雄伝』のキャラクターのコスプレをして高校に登校してきたんだろうか?


 もしそうだったなら、俺は彼女のことを思いっきり抱き締めて、ごめん俺も実は前からずっと好きでしたと正直に告白してしまっていたに違いない。


 でも、結局俺はその姿を見ることはできなかったのだ。


 


 なぜなら、その日の夜に(たぶん)死んでしまった俺は、その『サーザント英雄伝』の大多数のプレイヤーとキャラからエグいぐらいに嫌われている、とんでもなく怠惰で愚かで傲慢なに転生してしまったのだから。

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