第35話 12歳の悲壮な決意!

 金色の魔眼を閉じて、銀色の聖眼だけで、唯一の手がかりである筆頭執事のエドワー・ヤースから奪い取ったセルリアン・ブルーの布の切れ端を凝視すると、すぐに失踪直前のセルスナ・ラーグの様子が、鮮明な映像と音声で俺の頭の中で再生されていった。



 ああ、ちきしょうめ!


 俺があの剣術の鍛練の後に眠ったりせずに、その場にちゃんといれば・・・・・・。


 どうにかできたって言うのか?


 相手は、あのセルスナ・ラーグですら全くかなわなかったやつなのだ。


 この魔眼と聖眼に宿った能力スキル闇長剣ダーク・ロングソードがあるとはいえ、たった1月本気で鍛練しただけの12歳の俺にどうにかできたとは思えない。


 それでも、俺はあの場所にいたかった・・・・・・いや、いるべきだったのだ!


 ああ、しかし、それにしても・・・・・・信じられない。


 俺が血を引いているのは、ただの魔族ではなく、魔王だったなんて!


 そんな設定は、原作ゲーム『サーザント英雄伝』ではまるで明かされていなかったはずだ!


 しかも、闇属性の魔王だなんて!


 でも、一体なぜ急にこの情報が明かされたんだ?


 もしかして怠惰であるはずの俺が努力してしまったからか?


 そういえば、あのメファイロというやつは努力を毛嫌いしていた。


 ということは、闇属性の幻の魔王も俺が努力することをよしとしていないということか?


 だったら、今以上に努力すれば・・・・・・また向こうから。


 8体いる魔王の中で唯一主人公たちが倒すどころか結局最後までその居場所すら突き止めることができなかったのが、闇属性の幻の魔王なのだ!


 つまり、まだ誰もその姿すら見たことがないのである。


 だったらさらに努力しまくって相手を今以上に刺激して誘き寄せるしかないだろう!



 とにかく猶予はあと丸4年。


 だが、4年後の俺はまだ16歳になったばかり。


 本編の第一部の舞台であるサーザント英雄学園に入学するにはさらに数ヵ月待たねばならない。


 いや、その4年後というのだって、メファイロあいつが言っていたことなのだから鵜呑みにすることはできない。


 もしかしてあの人食い大牛蜘蛛を差し向けてきたのもあのメファイロってやつなんじゃないか?


 そして、本当に殺すつもりはなくて、姿を見せずに俺の今現在の力を探ろうとしていたのではないか?


 その可能性は十分にあるだろう。


 それなら、やっぱりセルスナ・ラーグにあの人食い大牛蜘蛛の一件のことを告白しておくべきだったんじゃないか?


 いや、そんなことを言っても何も解決しないだろ!


 気持ちを切り替えろ!


 あんなことを言っていても、実際にはもっと猶予は短いのかもしれないんだからな。


 とにかく急がなくては!


 事情が完全に変わったのだ!


 こうなったら、13歳で飛び級でサーザント英雄学園に入学して、さらにド派手に努力しまくってやる。


 そこで圧倒的に抜きん出た存在になって3年のところを1年で卒業して本編の第1部である学園編を高速で終わらせ、第2部である魔王たちと生死を賭けて対決するシリアスパート、冒険者編に14歳で突入すれば16歳になるまでに闇属性の幻の魔王は無理でもあのメファイロを倒せる力くらいは身についているはずだ。


 ・・・・・・ああ、でも、その前に、原作通りなら、このセルスナ・ラーグの失踪にミーゼンツ侯爵家が関係しているという話なるはずだからその誤解を解かなくては!


 そこまで考えて、俺は執事長のエドワー・ヤースにこう言ったのだった。


「エドワー! 今から母様に会えるか? 母様は今どこにいらっしゃる?」




          ◇




 前世の記憶を取り戻してから、母、レッティア・ラーグ侯爵こうしゃく夫人と2人っきりで話すのは初めてだった。


 原作ゲーム『サーザント英雄伝』では、彼女しか俺、ベルベッチア・ラーグの出生の秘密を知らないことになっていた。


 つまり、彼女は俺も自身の出生の秘密を知らないと思っているはずなのだ。


 そして、その彼女も原作ゲームでは、俺、ベルベッチア・ラーグが魔族の血を継いでいるということだけを知っていて、それが闇属性の幻の魔王であることは知らないはずなのである。


 と言うのも、母は俺を出産して初めて自分が魔族との間にできた子供を生んだのだと気づいたようなのだ。


 どうしてそのようなことになっているのかよくわからないが、原作ゲームではそんな設定になっているのだから、目の前のこの母もきっとそうなのだろうと俺は思って、彼女が知らないであろうことは話さずに、セルスナ・ラーグに起こったことを簡潔に説明した。


「・・・・・・というわけで、信じられないかもしれませんが、セルスナ兄さんをあんな目に遭わせて連れ去ったのは、ミーゼンツ侯爵家の者ではなく、その魔王の手下なんです。でも、セルスナ兄さんがその魔王の器になるまでには、まだ丸3年の猶予があります! だから、その間に俺が強くなってセルスナ兄さんのことを救い出しますから、それまでは、もしできるなら母様が、父様を含めたこの城の全員に幻術をかけてセルスナ兄さんのことを思い出させないようにしておいてくれませんか? ・・・・・・どうか俺のことを信じて協力してください! 母様、どうかお願いいたします!」


 それに対して、わが母、レッティア・ラーグ侯爵夫人はこう言ったのだった。


「ベルベッチア、この母の幻術のことを知っているということは・・・・・・自分の出生の秘密にも気づいているのね? それなのに、自分のことよりも兄のことを考えることができるなんて、ベルベッチア、あなたという人は・・・・・・。わかったわ! セルスナの命を救うために、母はあなたの言う通りにいたしましょう! ・・・・・・でも、ベルベッチア、あなたも決して死んではなりませんよ!」




          ◇




 母の幻術(遠隔でウルスナ・ラーグにも幻術をかけたので丸一日寝込んでしまっていた)によって、ミーゼンツ侯爵家とのいざこざを無事回避できてから数日後の朝早く、俺はにこんな魔術書簡を送ったのだった。



『親愛なる書簡友達

      ノア・ハジャルツ様


あなたにこうして魔術書簡を送れることを誇りに思います。


ノア皇子おうじは最近毎日をどう過ごされていますか?


俺はあなたと剣を交えてから剣の熱に冒されてしまったみたいで、毎日剣の素振りばかりしています。


そして、毎日剣を握っていると、その最高峰の指導が受けられる英雄学園に入りたいと強く思うようになってきました。


それで、これは自分勝手なお願いなのですが、これから1年間ちょっとの間、俺は必死で剣術と魔術の腕を磨き続けます! 


だから、13歳で俺と一緒に飛び級でサーザント英雄学園に入学してくれませんか?


いい返事をお待ちしております!


    あなたの書簡友達

      ベルベッチア・ラーグより』



―――――――――――――――――――

第32話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


今回のエピソードが面白かったと思ってくださいましたら、作品情報の目次の下にある、おすすめレビュー欄で☆☆☆評価をしていただけるとうれしいです!


作者の執筆作業の何よりのモチベーションになりますので、何卒よろしくお願いいたします( 〃▽〃)

―――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る