第9話 幼なじみの原作主人公!

 俺、ベルベッチア・ラーグが生まれたのは夜7時半。


 その時刻になるまでの30分間は、結果を知っている俺にとっては本当に地獄のような時間だった。 


 そんな俺にすっと何者かが近寄ってきてこんなことを言ってきたのだ。


「ベルベッチア君は本当に度胸があるよね! 僕も来月が誕生日だけど、今からもう運命の女神様が来てくれるかどうか心配で心配で・・・・・・それなのに、ベルベッチア君は堂々としてるし、そうやって周囲を観察する余裕まであるんだから絶対に将来大物になるよ!」


 ハーランド・マセリ。


 こいつこそが何を隠そう、この一月後に平民出身で初めて運命の女神の祝福を受ける『サーザント英雄伝』の主人公の1人であり、俺、ベルベッチア・ラーグの幼なじみなのだった。


 平民ということもあり、ベルベッチアからかなりひどい扱いを受けていたにも関わらず、闇落ちする前まではベルベッチアのことを親友と思い信じ続ける、いわゆる天然記念物級のいい人キャラ。


 そして、こいつは、『サーザント英雄伝』の数あるキャラクターの中で俺が一番嫌いなキャラでもあった。


 俺、ベルヘッチア・ラーグが闇落ちし、自分が運命の女神の祝福を受けると急に今までのことは全部なかったみたいに主人公面しやがるのがめちゃくちゃかんさわるのだ。


「ハーランド! 平民のお前なんかが運命の女神の祝福を受けられるわけがないだろう? 運命の女神に祝福される最後の10人目の祝福者はこの俺に決まっている!」


 ああ、なんかこいつを前にすると、自然と悪役貴族ムーブしてしまう!


 もしかしたら、こいつこそが俺にとっての最大の破滅フラグなのかもしれない。


 俺がそんなことを思いながら、その焦げ茶色の髪に焦げ茶色の瞳のパッとしない幼なじみの顔を睨んでいると、彼はこう言ったのだった。


「さすがベルベッチア君だね! その自信があれば絶対に運命の女神様も祝福に来てくれるよ!」


 本当にそう思ってるのか?


 ほんとは自分に来るって、すでにわかってんじゃねぇのか?


 その上で俺のことを馬鹿にしてんだろ!

 

 この偽善者が!


 俺は心の中でそんな悪態をつきながらも、こう言ったのだった。


「当たり前だろうが! 俺が最後の10人目の祝福者に選ばれてお前を絶望の淵に叩き落としてやるからな! グヘヘヘヘッ!」


 俺が自棄になってグヘヘヘヘまでつけてそう言ってやったのに、ハーランドは涼しい顔でこう返してきたのだった。


「うん! そうなったらいいね! 僕も今日運命の女神様がここに来ることを親友として心から祈ってるよ!」


 嘘つけ! 


 ああ、でも、こいつに乗せられて完全にフラグが立っちまったな。


 こんな暴言を幼なじみに吐くようなやつに運命の女神が祝福にやってくるはずがない!

  

 俺は本当にそう思っていたのだが、その時刻になると全く予想外のことが起こったのである。



 ――ラーグ侯爵夫人殺人事件発生まで、あと1時間2分18秒。



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第9話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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