高校3年生の夏休み、“私”はつまらない意地と好奇心からついネットの掲示板へ『だれでもいいからキスがしたい』と書き込んでしまった。とはいえそれで終わり、そのはずだったのに。課外授業で彼女の隣に座っていた男子、真水から『オレでもいいんですか』の返信が来て……キスだけの関係を始めることとなるのだった。
物語への見事な導入にまず目を奪われる本作ですが、キャラクターの解像度が本当に高いのですよ。
主人公の“私”と真水くん、ふたりのもどかしさやとまどいが濃やかな心情劇になっていることもですが、そこへ至るまでのこと――互いに互いを見た、しゃべった、思った、果てに意識した等々、本来はなんでもないもので終わるはずだったものが、「キス」のせいで特別に成り変わってしまう。綺麗事で飾られることのない生々しさがきらめくじゃあありませんか。そしてそのきらめきこそが予感を残しつつもこの上ない終わりを物語にもたらしてくれるのですよねぇ。
噛み締めたくなるほろ苦い叙情感、ぜひ味わっていただきたく。
(「甘いか辛いか片思い」4選/文=髙橋剛)