人生が崩れたのは、あの火事の夜だった。
絵筆を置き、仕事に逃げ込み、それなりに生きていた「るん」は、元恋人との再会を機に過去の傷をえぐられ、そして突然の事故で命を落とす──はずだった。
目を覚ました先は魔界。しかも、召喚主は山羊頭の魔王で、提示された選択肢は「絵を描くか、子を産むか」。
描けない女に与えられたのは、期限付きの婚活生活。絵を描くことも、愛を信じることもできない彼女に、人生の再構築はできるのか?
亡き父のアトリエ、蘇る火事の記憶、そしてミイラになった元カレの存在が、彼女の現在をじわじわと侵食していく。
魔界の湖畔に再現された生家で、るんは『自分の人生をもう一度描き直す』ことを迫られる。アートと愛、再生と逃避の狭間で揺れる、不器用な大人の異世界再生譚。
序盤からすごく面白いです。
異世界に召喚され、魔王と対面することになった主人公の相川るん。
るんは魔王から「異世界で子孫を残すこと」を求められる形になる。
そして、そのためには「お相手」が必要という形に。
魔王様。そこで妙に紳士です。「子孫を残させるため」にるんの意志など無関係に子供を産ませるとか、そういう非人道的なことはなさりません。
その代りに、「いいお相手」が見つかるようにと、婚活を行わせて「マッチング」をさせようと準備を進めてしまいます。
自由意志を認めるんだか認めないんだか。この辺りのバランス感覚がGOOD!
その先では『レベル』が設定されており、なんと、「受け入れやすさ」がレベルに対応しているという。「これは無理」と思わせる「難易度」がレベルという、リアルな婚活業界でもひそかに存在していそうなものが出てきます。
ファンタジーな世界なのに、絶妙に漂ってくるリアルの匂い。婚活としてマッチングさせられるスライムなどのモンスター。そして「事案」とかを気にしてしまう世知辛さ。
現代の婚活業界への風刺と、ファンタジーな楽しさが見事にマッチングしている、楽しさいっぱいのストーリーです。