第33話

「な・か・の・ひ・と、なんか、い・な・い。そうでしょ?そうだったよね?ね?」

「陽ちゃん、怖い、顔が怖いよ」


 なぜだろう、陽ちゃんの満面の笑みには有無を言わせない威圧感があったんだ。


「そっ、ソウデスネ。スミマセン。何か思い違いをしていたヨウデス」

「うんうん。分かってくれたんなら、いいんだよ」


 陽ちゃんがにっこりと微笑む。


 その爽やかな笑顔が、逆に怖いよぉ…。


「僕はね、ミリ姉ちゃんに花火を見せたくて、どうしたら最高の花火を見せられるだろうって、ずっと考え続けていたんだよ。そしたら、僕の前に現れたんだ、クロウニンジャーが。“野球を愛する少年よ、悩み事があるなら言ってみよ”って――」

「え、クロウニンジャーは喋れないって設定じゃなかったっけ?」

「…テ、テレパシーだよ!僕の頭の中にクロウニンジャーの声が響いてきたの!」

「あ、はいはい。…続けて」


 陽ちゃんは少し頬を赤らめて、コホン、と咳払いをひとつすると話を続けた。


「それで、僕が事情を話してたらね、“叶えたい夢があるなら決して諦めてはならぬ”って言って、それで着ぐるみ――じ、じゃなくって、変身アイテムを貸してくれたんだ」

「変身アイテム?」

「う、うん。えーとね、しゅ、手裏剣みたいな形のものでね、それを握りしめて“変身”って言ったら変身できたんだ、うん」


 陽ちゃんはあたふたしながら言う。


「ヘェー、ソウダッタンダー」


 …一応、あたしも調子を合わせておく。


 子供の夢を壊してはならない、…よね。


「まぁ、それはどうでもいいでしょ。他の話をしようよ。7年ぶりなんだしさ。僕、ミリ姉ちゃんとずっと喋りたかったんだ」


 本当はもうちょっと根掘り葉掘り聞きたいとこだったけど、話してはいけない部分もたくさんあるんだろう。


「ケンちゃんは元気にしてる?」


 ケンちゃんとは、陽ちゃんの同級生で野球友達でもある、あたしの弟の謙吾のことだ。


「うん、元気だよ、…多分ね。今、警察学校の寮に入ってるんだ、あの子」

「へえぇ!ケンちゃん、お巡りさんになるんだ!凄いね!」


 陽ちゃんは心底ビックリした顔をしてるけど、プロ野球選手が言う台詞かと思うと、何だか奇妙な感じもする。

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