第二章 熊埜御堂姉弟の喜怒哀楽
第17話 姉、労働
オレがオレにオンデマンド、MOMOWINだ。
私は自分の脳味噌のつくりを基本的に
あんなに蓮に対してドカギレてたはずなのにね、一夜明けたらなんで怒ってたのかすらわかんなくなっちゃった。
一夜も明けてないな。四時ぐらいに一回おしっこしたくて起きたときにはもう怒ってなかったな。
あの、一人暮らしの女性全員にお聞きしたいんですけど、夜中におしっこしようと思ってトイレ行って寝ぼけて便座下げるの忘れて座っちゃっておしりがすっぽりハマって抜け出せなくなってにっちもさっちもいかなくてそのまま死んじゃったときって、死因はどうなりますか。保険は効きますか。
そんなしょーもないSAWのトラップみたいなので二度めの死を迎えて
まとめますと、私、バイト始めました!
すごーい! えらーい! 第二章の幕開けにふさわしい新展開ー!
「あの、すみません」
やべ、ぼーっとしてたらお客さんの存在に気づかなかった。
「ほいほい、なんでしょう」
「メダル、詰まっちゃったんですけど」
また? ほんっと、しょっちゅう詰まるんだから。
しょっちゅう詰まるわりに私にはまだ直し方がわかんないんだから。
「申しわけないです、対応できる者をお呼びしますね。てんちょー」
「あいよー」
「メダル詰まり対応おねしゃーす」
「うい」
白髪混じりの頭を掻きながらのそのそ出てきた恰幅のいいおじさんが、このゲームセンター
「ジョイフルスタジアム
恰幅のいい、ってよりは丸っこいって表現したほうが的確かも。制服がピンクのせいで見た目ほとんどプクリン。可愛いね。
蓮とのバチバチの姉弟喧嘩を経て次の日には心を入れ替えてタウンワークに登録してみたものの、近所のファミリーレストランだとかスーパーマーケッツ(ブラックビスケッツみたいに言うな)だとかは軒並み「
なぜか永遠に『さくらんぼ』のインストバージョンがBGMとして流れる店内で行われた面接にて、
「亞遷者なんですけど、大丈夫ですかね……?」
おそるおそる
「いいのいいの、うちはスタッフにもお客にも結構そういう人いるから」
と優しく微笑んでその場で採用を言い渡してくれた店長は、既にご結婚されていてお子さんもおられるご様子。
「右に写ってるのが、うちの一人娘だ」
こないだ暇な時間(ってジョイスタに暇じゃない時間なんかぶっちゃけ訪れやしないんだけど)、店長がスマホを見してくれた。
家族旅行でしょうな。札幌はクラーク像の前でお決まりのポージングを決める親子三人のセンター、娘ちゃんの圧倒的ビジュを認識するなり、私は驚きのあまり「アラァ!」といつぞやうごくメモ帳で一世を風靡したドナルドの声を発してしまいました。
第三使徒サキエルのようにすらりと長い手足、透明感というよりもはや透明で明らかに向こう側の景色が透けて見える美肌。ペットボトルのキャップぐらいの大きさしかない顔面に
そうして見せてもらった写真たちはいずれも眼福眼福。肌しっろ。首ほっそ。まつ毛なっが。二重幅ひっろ。いったい前世でどれほどの徳を積んだらこんな美人に生まれられるというのだ。
「べっぴんさんですなあ。高校生ぐらいですか?」
「いや、先月で十三歳になったところだよ。中一だ」
「ふうん」
うなずいた直後、私は店長のスマホの画面を二度見、四度見、八度見(指数関数的増加)。
「ちゅ、ちゅーいち!?」
この子が? 中学生? 一年生?
ほんまに言うてる?
中一ってことは、文化祭のステージでいつもここからのツッコミ暴走族を完コピ披露したところややウケを獲得、これに味を占めてその後半年あまりエンタ芸人のものまねに明け暮れ、学年内でおもしれー女の称号を手にするやすっかり天狗になり、人様の
待って?
ちょっと待って?
中一。中学一年生。
それって、言い換えれば去年はまだ小学生だったってことよね?
つまり、この大人びた子が、わりかし最近まで黄色い帽子被って、ランドセル背負って歩いてたってことやんね。
なるほど。
なるほどね。
「Oh……Good enough」
「グーディナフ? とは?」
首を
ぼ、ぼくは、発育のいい小学生女子が大好きなんだな。いけね、ドスケベの裸の大将が出ちゃった。
私の好きな女の子ランキング一位、発育のいいJS。二位が膝きたねえ女の子。
いや苦笑すんのやめてよ。なんかさ、たまにいるくない? メイクとか服とかちゃんと可愛いのに、ショーパンの下の膝だけはなんでかガッスガスの女の子。膝がきたねえ女の子ってよりは、膝以外ちゃんとしてる女の子が膝だけちゃんとしてないっていう事実に、なんか、人間味を感じますわね。
三位はベタだけど歯列矯正してる女の子ね。幼稚園の同期に矯正してる女の子がいてさ、ニカッて笑うと矯正器具がチラリと覗くんすわ。初めて目の当たりにしたとき私は興奮のあまり「桃もあれやるー!」と地団駄踏んでママにねだるも、あいにく私はママ譲りの歯並び、ウォール・マリアかと見紛うほど理路整然と並ぶ美しき歯を持つ女ゆえ泣く泣く諦めたのも今となっちゃ甘酸っぱい思い出。
ああ、でもあれだな。同じ矯正してる女児の中でもあの子は苦手だ。『ファインディング・ニモ』に出てくる敵の女の子。あの子だきゃあ苦手。こえーから。
「しかし羨ましい限りですな。毎日帰ったらこの美人が家にいるわけでしょ?」
「それが、娘は絶賛反抗期中で、私とは口を利いちゃくれないんだ」
肩を落とす店長を言葉の上では慰めつつ、この子が無愛想でつっけんどんで
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