作者が描く『カミロと主』の物語は、華やかなロマンスでも、激情に満ちたハードボイルドでもない。
それはふたりが互いを、穏やかに、時に怖れを孕みながらも眼差し、生き直すための、祈りに似た時間。
かつて裏社会で傷つき、今は「執事」として仕えるカミロ。
家系の過去に贖罪の意識を抱く主。
ふたりの関係は、単なる主従を越え、かといって劇的な逆転を目指すわけでもない。
痛みを知る者同士が、ただ慎ましく、互いを受け入れていく。
この物語には、大きな事件はさほど起こらない。
最終話に至るまで、派手なカタルシスはない。
けれど、そこには確かな息づかいがある。
過去と向き合い、孤独と折り合いながら、それでも誰かと共にあろうとする、静かで確かな意志が。
無理に癒そうとしない、救おうともしない。
それでも、相手の癖を見つめ、茶葉を選ぶように、そっとなにかを差し出し合う。
そんな優しさの源流が、確かにここにあります。