第4話 貴方に逢いたくて


幾ら何でもやり過ぎたかもしれない。

お、お兄ちゃんと一緒に風呂に入ってしまった。

私はお兄ちゃんを上がらせてからお風呂に改めて入る。

何て事をしてしまったのだろう。

哲也さんもみんな「水着だしね」と言っていたとはいえ。


「...」


私は裸になっている胸を見る。

こんな大きなおっぱいをビキニとはいえ見られた...。

その事に真っ赤になって目を回す私。

バカバカ!


「...」


そして私は頭を洗って出る。

リビングに哲也さんとお母さんが居た。

私を見てから「上がった?」とお母さんが言ってくる。

頷いた私。


「...春奈さん」

「は、はい」

「...アイツを。...拓哉を風呂に入れてくれてありがとう」

「いえ。...私がしたかった事ですから」

「...アイツは度重なる...事で...」


と言いながら哲也さんは涙を浮かべる。

悔しそうな涙を浮かべた。

それから「...すまない」と呟く。

私達は慌てながら哲也さんを見ていた。


「哲也さん。泣かないで」

「...そうだな。里佳子」

「私もそばに居ます」

「...春奈さん...」


哲也さんは落ち込んでいた。

そしてティッシュで涙を拭きながら「...悔しくてね」と呟く。

それから「泣かないって決めたのに」とも。

私達は顔を見合わせてから哲也さんを見ていた。


「いじめなんてこの世から無くなってしまえばいいのに」

「...そうですね」

「それを、何度願った事か」

「...お父さん...」

「...すまないね。俺なんか...情けなくて」


そして哲也さんは涙を拭う。

それから俯いた。

するといきなりお母さんがそんな哲也さんをチョップした。

私は驚愕しながらお母さんを見る。


「な、何をしているの!?」

「春奈。大丈夫。哲也さん。情けないですよ」

「...お、おう」

「...全く。私の好きになった人はそんな弱い人じゃ無いです」

「...里佳子...」

「...彼は少し接し辛いかもしれません。だけど...私は彼を好きになりたい」

「お母さん...」

「だから...私は頑張ります。哲也さんも弱気じゃなくて強気で」

「...」


哲也さんは涙を拭う。

それから「だな」と笑みを浮かべた。

そして「...彼を...どうしたら助けれるか考えていきましょう。あなた」と哲也さんに微笑むお母さん。

私は涙が浮かんでしまった。



アイツは何を考えているのか。

そう考えながら俺は自室にて考えていた。

ベッドの上で先程の風呂の件を考える。

それから俺は目を閉じてから身体を休めた。

するとドアがノックされた。


「お兄ちゃん」


アイツか。

そう考えながら俺は「何だ」と返事をする。

すると春奈は「その。ありがとう」と言ってから無言になる。

ありがとう?ありがとうって何だ。


「...春奈。俺は何もしていない。全てお前がやった。だからありがとうなんて言われる意味が分からない」

「お風呂に入ってくれた」


そう言う春奈。

俺は衝撃を受けながら「...」となる。

お風呂に入ってくれた、って。

そう考えながら俺は「...意味が分からない」と答えながら横になる。

すると「お兄ちゃん。私はお兄ちゃんがお風呂に入ってくれただけで幸せなの」と言う。


「だからありがとう。お兄ちゃん」

「当たり前の事だ。だから...ありがとうなんていう言葉は似合わない」

「でもお兄ちゃんは頑張ってお風呂に入ってくれた。だからお兄ちゃんにはお礼を言う価値はあるよ」

「...」


本当に当たり前の。

日常的な行動をしたまで。

なのに何で。


そんな事を考えながら俺はドアを見る。

それから後頭部を掻いてから起き上がる。

そしてドアをゆっくり開けた。


「お兄ちゃん...」

「...先程も言ったけどお礼は俺が言うべきだ。お前じゃない。なのにどうしてそんな事を言うんだ。...本当に意味が分からないんだ」

「私は...どんな些細な事でも大切だって思っています。だからお兄ちゃんの事も大切に思っています」

「...俺なんかを大切にしても」

「覚えてますか?お兄ちゃん。私達が初めて出逢った日を。私は忘れてないです」


その言葉に俺は「...」となり横を見る。

窓から眩しい日が差し込んでいる。

俺はその光景を見てから春奈を見る。

すると春奈は一歩寄り添って来た。

それから俺の胸に手を添える。


「私は忘れてないです。思い出して...くれたら嬉しいです。楽しかったですよね?中学校時代。私は絶対に忘れない。あの日々は特別でしたから」

「...」

「忘れても良いですけど...思い出してくれたらそれだけ嬉しい事は無いです」

「どうして...お前という奴は」

「私は楽しかったですから。本当にかけがえのない日々で。とっても楽しかったから」


俺は「...」となったまま春奈を見る。

すると春奈は「お兄ちゃん。ハグしても良いですか」と言い出す。

俺はその言葉に一瞬固まり。

それから「好きにしてくれ」とぶっきらぼうに答えた。

春奈は涙を浮かべながらゆっくり俺を抱きしめてきた。


「お兄ちゃんの心臓の音が聞こえます」

「...」

「お兄ちゃんを必死に。ずっとずっと探した甲斐がありました。先輩を必死に。何日もかけて手がかりを探して。引っ越しちゃったから」

「...春奈...」

「お兄ちゃん。今度は私が貴方を必ず助けますから。必ず。必ずです」

「...」


俺は何も言えないまま春奈に抱き締められた。

それから俺は春奈が離れるまで春奈を見下ろしていた。

どうしてこんなに変にコイツから暖かさを感じるのだろうか?

コイツは女子なのに。

俺を散々にした女子という俺にとっては凶悪な生き物なのに。

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