第4話 貴方に逢いたくて
☆
幾ら何でもやり過ぎたかもしれない。
お、お兄ちゃんと一緒に風呂に入ってしまった。
私はお兄ちゃんを上がらせてからお風呂に改めて入る。
何て事をしてしまったのだろう。
哲也さんもみんな「水着だしね」と言っていたとはいえ。
「...」
私は裸になっている胸を見る。
こんな大きなおっぱいをビキニとはいえ見られた...。
その事に真っ赤になって目を回す私。
バカバカ!
「...」
そして私は頭を洗って出る。
リビングに哲也さんとお母さんが居た。
私を見てから「上がった?」とお母さんが言ってくる。
頷いた私。
「...春奈さん」
「は、はい」
「...アイツを。...拓哉を風呂に入れてくれてありがとう」
「いえ。...私がしたかった事ですから」
「...アイツは度重なる...事で...」
と言いながら哲也さんは涙を浮かべる。
悔しそうな涙を浮かべた。
それから「...すまない」と呟く。
私達は慌てながら哲也さんを見ていた。
「哲也さん。泣かないで」
「...そうだな。里佳子」
「私もそばに居ます」
「...春奈さん...」
哲也さんは落ち込んでいた。
そしてティッシュで涙を拭きながら「...悔しくてね」と呟く。
それから「泣かないって決めたのに」とも。
私達は顔を見合わせてから哲也さんを見ていた。
「いじめなんてこの世から無くなってしまえばいいのに」
「...そうですね」
「それを、何度願った事か」
「...お父さん...」
「...すまないね。俺なんか...情けなくて」
そして哲也さんは涙を拭う。
それから俯いた。
するといきなりお母さんがそんな哲也さんをチョップした。
私は驚愕しながらお母さんを見る。
「な、何をしているの!?」
「春奈。大丈夫。哲也さん。情けないですよ」
「...お、おう」
「...全く。私の好きになった人はそんな弱い人じゃ無いです」
「...里佳子...」
「...彼は少し接し辛いかもしれません。だけど...私は彼を好きになりたい」
「お母さん...」
「だから...私は頑張ります。哲也さんも弱気じゃなくて強気で」
「...」
哲也さんは涙を拭う。
それから「だな」と笑みを浮かべた。
そして「...彼を...どうしたら助けれるか考えていきましょう。あなた」と哲也さんに微笑むお母さん。
私は涙が浮かんでしまった。
☆
アイツは何を考えているのか。
そう考えながら俺は自室にて考えていた。
ベッドの上で先程の風呂の件を考える。
それから俺は目を閉じてから身体を休めた。
するとドアがノックされた。
「お兄ちゃん」
アイツか。
そう考えながら俺は「何だ」と返事をする。
すると春奈は「その。ありがとう」と言ってから無言になる。
ありがとう?ありがとうって何だ。
「...春奈。俺は何もしていない。全てお前がやった。だからありがとうなんて言われる意味が分からない」
「お風呂に入ってくれた」
そう言う春奈。
俺は衝撃を受けながら「...」となる。
お風呂に入ってくれた、って。
そう考えながら俺は「...意味が分からない」と答えながら横になる。
すると「お兄ちゃん。私はお兄ちゃんがお風呂に入ってくれただけで幸せなの」と言う。
「だからありがとう。お兄ちゃん」
「当たり前の事だ。だから...ありがとうなんていう言葉は似合わない」
「でもお兄ちゃんは頑張ってお風呂に入ってくれた。だからお兄ちゃんにはお礼を言う価値はあるよ」
「...」
本当に当たり前の。
日常的な行動をしたまで。
なのに何で。
そんな事を考えながら俺はドアを見る。
それから後頭部を掻いてから起き上がる。
そしてドアをゆっくり開けた。
「お兄ちゃん...」
「...先程も言ったけどお礼は俺が言うべきだ。お前じゃない。なのにどうしてそんな事を言うんだ。...本当に意味が分からないんだ」
「私は...どんな些細な事でも大切だって思っています。だからお兄ちゃんの事も大切に思っています」
「...俺なんかを大切にしても」
「覚えてますか?お兄ちゃん。私達が初めて出逢った日を。私は忘れてないです」
その言葉に俺は「...」となり横を見る。
窓から眩しい日が差し込んでいる。
俺はその光景を見てから春奈を見る。
すると春奈は一歩寄り添って来た。
それから俺の胸に手を添える。
「私は忘れてないです。思い出して...くれたら嬉しいです。楽しかったですよね?中学校時代。私は絶対に忘れない。あの日々は特別でしたから」
「...」
「忘れても良いですけど...思い出してくれたらそれだけ嬉しい事は無いです」
「どうして...お前という奴は」
「私は楽しかったですから。本当にかけがえのない日々で。とっても楽しかったから」
俺は「...」となったまま春奈を見る。
すると春奈は「お兄ちゃん。ハグしても良いですか」と言い出す。
俺はその言葉に一瞬固まり。
それから「好きにしてくれ」とぶっきらぼうに答えた。
春奈は涙を浮かべながらゆっくり俺を抱きしめてきた。
「お兄ちゃんの心臓の音が聞こえます」
「...」
「お兄ちゃんを必死に。ずっとずっと探した甲斐がありました。先輩を必死に。何日もかけて手がかりを探して。引っ越しちゃったから」
「...春奈...」
「お兄ちゃん。今度は私が貴方を必ず助けますから。必ず。必ずです」
「...」
俺は何も言えないまま春奈に抱き締められた。
それから俺は春奈が離れるまで春奈を見下ろしていた。
どうしてこんなに変にコイツから暖かさを感じるのだろうか?
コイツは女子なのに。
俺を散々にした女子という俺にとっては凶悪な生き物なのに。
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