【番外編2話】本当の理由


「入るぞ!!」


 ノックもなしに、リゼリオはキッチンのドアを勢いよく開けた。

 

「何だよ急に」


 不躾な訪問にジャックが異議を唱えるが、リゼリオはお構いなし。

 ずんずんとジャックに詰め寄っていく。

 

「失望したぞジャック。どうやら俺は、貴様を買い被りすぎていたようだ」

「は? 藪から棒にいきなりなんなんだよ。意味分かんねぇぞ!」

「とぼける気か。まったく……これだから女心が分からない男は困る」


 両手をすくめたリゼリオは、やれやれといった顔でため息を吐く。


「なんだよそりゃ! お前だって分かってないだろ! 知った風に言うんじゃねぇよ!」

「な……!? そんなことはない。アンバーの思っていることなら手に取るように分かる」

「嘘つけ! お前が変な発言をするせいで、アンバーが困っているのをよく見るぞ!」

「……そ、そうなのか!? まったく気づかなかった……。ジャック、その辺りをもう少し詳しく――」

「どうして私の話になっているんですか!!」


 リゼリオとジャックの顔が、いっせいにアンバーへと向く。

 瞳を見開いた二人は、そっくりな顔で驚愕していた。

 

 

 

「どうして君がここにいる?」

「不安だったので様子を見に来たのですが……どうやら、正解だったようですね」


 瞳を細めたアンバーは、じとりとした鋭い視線を向ける。

 呆れの感情を乗せたそれが向かう先は、当然リゼリオだ。

 

 バツが悪そうにしたリゼリオは一歩後退。

 すまなかった、と弱々しい謝罪を口にした。

 

(リゼリオ様には色々言いたいけれど、それは後回しね)


 今は他にやるべきことがある。

 優先順位を間違えてはいけない。

 

「ジャック。あなたに聞きたいことがあるのよ」

 

 

 事情聴取をするため、キッチンからゲストルームへと場を移す。

 三人がソファーに座るなり、まずはアンバーが話を切り出した。

 

「モルガナから大体の事情は聞いているわ。ねぇ、ジャック。どうしてあんなことをしたの?」

「男の風上にも置けんやつだな!」

「……リゼリオ様は少し黙っていてください。話の邪魔です」


 隣に座るリゼリオを鋭い視線で制すと、しゅんと背中が小さくなった。

 これでジャックの話に集中できるはずだ。

 

「……似合うと思ったんだ」


 対面のソファーに座るジャックが、絞り出すように声を上げた。

 膝の上に乗っている拳をグッと握る。

 

「俺とすれ違った女の人が着ていたドレスが、めっちゃ綺麗でさ……もしあいつが着たら、絶対に似合うと思ったんだ。それでつい、食い入るように見ちまったんだよ。軽率だったぜ」

「……そうだったの。美人だったから、見惚れていた訳じゃないのね?」

「そんなの当たり前だろ……! 俺が愛しているのは、この世で一人。モルガナだけだ」

「モルガナには事情を話したの?」

「もちろんだ。その場で言ったさ。でもあいつ、全然俺の話を聞いてくれなかったんだ。それでカチンときて、今みたくなっちまった。俺たち……ずっとこのままなのかな」


 両手で顔を覆ったジャックが、深いため息を吐く。

 

 思っていた通り、ジャックの行動には裏があった。

 あとは二人が顔を合わせて、互いに、ごめんなさい、をすれば解決するだろう。

 

 しかし、そう簡単にはいかない。

 何の考えもなしに顔を合わせたら、いつものように言い合いになってしまう可能性が高い。

 

 そうならないためには、一工夫を加える必要があった。

 

「ジャック。あなたが見惚れたドレスの詳細を教えてちょうだい。なるべく細かくね」

「いいけど……そんなもん聞いてどうするんだよ?」

「ふふふ。ちょっとした考えがあるの」

 

 得意な顔になったアンバーは、小さな笑みを口元に浮かべた。

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