第5話 後悔 小雪side

 次の日、様子がおかしい義兄のことなどすっかり忘れて、中学から一緒の友達と遊びに行った。

 ちなみに湊が私を襲おうとしたことを知っている数少ない人物である。

 まずはカラオケに行こうとなったので最寄りの「音痴☆魂」に入った。

 なぜかサービスが良くていい店である。

 そのまま、3曲ほど歌ったところでその友達がふとした感じでつぶやいた。


「そういえばさ……小雪のお兄ちゃんの件、本当は違う人がやったらしいよ……なんか、それを見てた人が罪悪感に耐えきれずに先生にチクったんだって」


「え………」


「えっと、最初から説明するね……」


 そう言うとその友達は話し始めた。



      ****

 

 これは、小雪が中学2年生だったころの話。

 当時小雪は兄である湊にかなり懐いていた。

 仲は、とても良好だった。


 ある日のことだ。


 小雪が学校から帰宅しようとしていると後ろから何か衝撃が走った。

 小雪の意識は暗転した。

 

 そして……目を覚ますと何故か下着姿になっていて、その隣で湊が倒れていた。

……湊は、気絶していた。

 

 その湊を取り押さえていたのはクラスでも中心人物的な存在で、告白されたこともあるクラスメイトだった。

 そのクラスメイトは言った。


「こいつがお前のことをスタンガンで気絶させて無理やり襲おうとしたんだ!だから取り押さえた……悪いことは言わない……こいつとは関わらないほうがいい」


 小雪は、失望した。

 結局お兄ちゃん……いや、お兄ちゃんだったものはそんなことしか考えていなかったのだ。

 その話は学校中に拡散され、湊は……嫌われ者に成り下がった。

 警察沙汰にもなりかけたが、小雪は大事にしたくなかったのと、何故か襲おうとする気配を感じなかったことからしなくていいと言った。

 湊は最初は言い訳をしていたが、


「言い訳しないで……!見苦しいよ……」

 

 というと、もう自分からは私に対して話しかけなくなった。

 そうして、この義兄妹の関係は壊れた。



       ****


「でもさ、実はスタンガンで気絶させたのはその取り押さえていたクラスメイトだったらしいよ……暴力団関係者と知り合いだったんだって。その人が小雪を襲おうとしてたところを偶然見てた湊くんが助けて、その調子で小雪を守ろうとして、殴る蹴るの暴行を受け気絶しちゃったから罪全部なすりつけられたって話」


「え……じゃあ、スタンガンを持ってる相手に立ち向かって……その時私の目が覚めちゃったから……お兄ちゃんのせいにされたの……?」


「そうらしいよ、なんか当時取り巻きだった人が後でバレるかも、ということと悪いことをしたから謝りたいという気持ちでチクったらしい……」


 小雪は強烈な目眩がするように感じた。


「嘘……私がこれまでしてきたことは……ずっと無視して、悪口いって……助けてくれたのにお礼も言わないで、き、傷つけてきただけ、なの!?」


「ね、ねぇ小雪。大丈夫?顔、真っ青だよ……?」


「ご、ごめん……わ、私帰る……用事ができたから……お金はここに置いておくから……!」


「ちょ、ちょっと小雪!」


 そう言うと、小雪は店を飛び出した。

 お兄ちゃんはもういつも帰ってる時間だし、大丈夫だよね……でも、早く謝らないと謝らないと謝らないと謝らないと……そんな思考をしながら小雪は家へと急いだ。




……もう、全ては昨日の段階で手遅れになっていたことに気づかずに。

 湊はもう人間性が欠落しており、謝罪が通じるような状態ではなかった。


 


 


 



 家に帰った小雪は湊がいないことを不思議に思った。



………その日は、湊は帰って来なかった。



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