第2話 【クリスマスプレゼント】

「綺麗なところね。こんな森の中でクリスマスを過ごせるなんて、素敵だわ」


リゾートホテルシリウスのオープン記念パーティーが終わり、最上階のオーナールーム。照明が落とされた部屋の窓から、ライトアップされた外の雪景色を眺めていた。呟いた言葉とは裏腹に少女の表情は暗く、抱いている黒い猫に頬を寄せている。


「パパ、一緒に来ようって約束したくせに」


頬を伝う涙は、ただ流れて落ちていた。


ベットに眠っているのは、少女の母親でこのホテルのオーナー。かなり疲れていたのだろう、化粧もそのままであった。

それも無理もない。1か月前、突然に他界した夫の代わりを務めているのである。社交場は馴れているとはいえ、心労が積もっていた。傷心している彼女にとって、華やかなセレモニーが余程こたえたのだろう。


テーブルにはキャンドルが灯されている。家族3人の写真と、今日父親に渡すはずだったクリスマスプレゼントが置かれていた。


「あれは、何かしら」


突然に山の向こう側に淡い紫色の光が、まるでオーロラの様に拡がった。降り続く真っ白な雪もふわりと紫色に輝く。

訳が分からない現象であったが、不思議と嫌な感じがしなかった。


「パパからのクリスマスプレゼントかしらね」


不思議な光景に思わず微笑む少女。隣で眠る母親の寝顔も、何だか安らかに楽しげであった。





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