第46話 決勝-③

「なんで……なんであたしの炎が効かないのよ!!」


 シャーリーが炎を放つ。

 それは美しい紅蓮の炎。

 火力も凄まじく、俺なんかじゃどう足掻いてもこの一撃で葬られる。

 でも、それは黒火に通じない。


金華きんか、お願い」


 仙猫せんびょう・金華。

 化け猫の上に、猫又。

 そしてその猫又の更に上、猫の妖怪の中でも最上位にあたる存在、猫魈ねこしょう

 黒火から聞いた話によると、金華はその猫魈に該当するらしい。


 くわぁ、と欠伸。

 余裕の表情のまま、金華は黒火の前にのそりと歩き、束ねた三本の尾を解いた。

 三つの分かれた尾。

 そのそれぞれに灯る蒼白い炎と、シャーリーの放つ紅蓮の炎が衝突する。


「無駄だよ」


 相殺。

 シャーリーが放った渾身の魔法は、金華から漏れ出ている霊炎によって、かき消される。


天香具土命あまのかぐつちのみこと、仮にもカグツチの名を持つこの神に、炎は通用しない」


 圧倒的、とでもいったところか。

 あのシャーリーが、手も足も出ない。

 これに関しては相性の問題でもあるが、こうも一方的になるとは誰が予想したことか。


 金華の存在を聞かされたのが、3日前。

 猫の妖怪は割と多くマイナーなもの。

 特別強力ではなかったらしいが、金華は例外だ。


 中国の大妖怪、金華猫きんかびょうをベースに、日本の三大怪猫、そして天香具土命。

 その全てが融合して、一つになったのが仙猫・金華。

 魑魅魍魎を従える大妖怪であり、人々の信仰を集める神でもある。

 誰から借りた訳でもなく、黒火自身の手で従えた最強の式神。


「炎が……通用しない……? 何よそれ、反則じゃない」


 目に見えて、シャーリーは動揺している。

 だがその目はまだ諦めておらず、意思を示すように足元には巨大な魔法陣が展開された。


「正直、ナメてた。立花雪道以外は敵じゃないって思ってたけど、日本の魔女ウィッチもなかなかやるじゃない」

「うーん……正確には、魔女じゃなくて、陰陽師なんだけど……」

「ロンドンでは一緒なの!って、そんなのどうでもいいわ。重要なのは、黒火!あんたを私のライバルとして認めたってことよ!」


 動揺から一転。

 覚悟を宿した強い眼差し。

 足元の魔法陣から、何かが這い出て来る。


「使い魔があんただけの特権と思わないことね!」


 現れたのは、伝説上の生き物。

 鋭利な爪と牙を持ち、背中からは蝙蝠のような翼が生えている。

 巨大な体躯を覆う鱗は、シャーリーの炎と同じ紅蓮の色合いで、呼吸と共に漏れ出る吐息は灼熱の炎。

 それは爬虫類状の巨大生物。

 誰もが知る伝説中の伝説、ドラゴンがシャーリーに従うように、姿を現した。


「炎龍アズライグ。正直、この子を出すとは思ってなかったわ。さあ、第二ラウンド開始よっ!!」


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