第45話 決勝-②

 ——キィン……


 弾ける火花。

 超速で振るわれたナイフ同士が衝突し、空に閃光が弾けた。

 力量は互角……ではない。


「相打ち……かな」

「……随分と、謙虚な相打ちだな」


 だらりと、力なく垂れた左腕。

 健を切られ、まるで力が入らない。

 対して、城山の頬には赤い線が一つ。

 食らわせたのは同じ一撃とはいえ、差は大きい。


「降参を……する気はなさそうだね」

「当たり前だ」

「勝てるとでも?」

「当たり前……だっ!」


 一足。

 力強く踏み出し、一気に懐へ。

 逆手に握ったナイフを下から上へと切りかかるが——


「遅い」


 ——キィン


 散る火花。


「どうやらキミと御先祖様には、大きすぎる差があるみたいだ」


 一足。

 ドォンと轟音が鳴る程、力強い踏み込みから繰り出された超速移動。

 これだ。

 一方的にやられてる原因。

 この超速移動術が、俺と道雪を引き離す巨大な壁となり、立ち塞がり続けている。


 右……いや、左だ。


「一手、遅かったね」


 振り返った時には、既に遅い。

 またしても一手遅れた俺は、背後に回っていた城山からの斬撃をその身に浴びる。


「まだ、勝てると思っているのかい?」

「まあ、勝たなきゃいけないんでな」

「それは蘆屋さんのため?」

「俺のためだよ」


 俺のせいで知り合いが、友人が結婚させられるだなんて、そんな胸糞悪い話を抱えたままこの先の人生を歩みたくない。

 だから、これは俺のため。

 俺自身の為に、俺は城山を倒す。


「仮に、仮にキミが僕を倒せたとして、それでも優勝は無理だよ」

「……………」

「蘆屋さんとヴァレンティーノさんでは、力量がまるで違う。ヴァレンティーノさんは僕より強い。僕相手に満身創痍のキミが、僕を倒した後、ヴァレンティーノさんまでやれると思ってるのかい?」


 同時、灼熱の焔が、俺たちを分断していた土壁を打ち破る。

 ガラガラと音を立てて崩落する土壁。

 焔の奥には、二つの人影。

 片方は地に伏せ、片方はそれを見下ろしている。


「どうやら、向こうも決着が近いみたいだね」

「……そうだな。ところで、お前にはどっちが優勢に見えてるんだ?」

「何を——」

「一つ教えといてやるが、黒火は俺なんかよりも、遥かに強いぞ」


 暴風が巻き起こり、紅蓮の焔は弾けた。

 見通しのよくなった視界に移るのは、血を流しながらその獰猛な目つきで見上げるシャーリーと、それを見下ろす黒火の姿。


「……ごめんね。今回は、本気だから」


 黒火の背後で、ゆらりと蠢く巨影が二つ。

 片方は、今や見慣れた神の化身、三本足の大鴉——八咫烏。

 そしてもう片方、体躯は八咫烏と同等、三本の尾を束ね、一本の尾に見せた黒猫。

 尾の先端には、青色の炎が灯っていた。


 黒猫と鴉。

 不吉の象徴2匹が、その瞳にシャーリーを映していた。

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