第22話 結婚式
公爵領都の大神殿は公爵宮殿の外、貴族街と市民街の境にある。
普段は多くの領民の礼拝を受け入れる場所だ。
しかし今日は式のために礼服を着込んだ騎士や郎党たちにより華やかながらも厳重に警備されていた。
さらに大神殿の門の上に掲げられた魔道紋章が唸り、壁にめぐらされた魔法陣が光っている。魔導士が四方に配置され結界を張っているのだ。
攻撃魔法を禁止する平和結界である。
今回は貴族たちが多く集まる儀式のため、外の敵と内の敵を警戒する必要がある。
まず外の敵だが西大公には敵も多い。南大公とは戦争したばかりだし、北大公や東大公も隙あらば足を引っ張ろうとしている。
神殿を興味深く取り巻く領民の中に暗殺者や刺客が紛れている可能性は高いのだ。
次に内の敵だが、神殿の中に参列している貴族たちはもちろん丸腰だ。
しかしほとんどの者が騎士であり魔法使いでもある魔法騎士。
攻撃魔法を飛ばしての暗殺ということもあり得る。
そのため、宮殿や宴会場では平和結界がよく用いられる。
昔は宴会で魔法騎士同士が酔っぱらって喧嘩し、双方魔法を用いて大惨事になることが何度もあったためだ。
今は結界と武装解除のおかげで殴り合いで済んでいる。よくそのあと戦争になる。
さて、その平和と喜びの式典会場となる大神殿は、天上の神々の住まいを模している。高い天井には雲や星々をかたどったステンドグラスが散りばめられ、中天に達した太陽の光を優しく神殿内に注ぎ込んでいる。神殿内は優しくも色とりどりに輝く光で満ちてこれからの結婚式を煌びやかに祝福していた。
神殿の壁には、帝国で崇敬される神々の立像が荘厳に並んでおり、周囲が香り高い花々で飾られている。そして華麗な礼服に身を包む貴族たちが、中央の祭壇を見上げ、主役の登場を待ちわびていた。
その中で迷宮伯家の嫡子、オウドが神殿に入ってきた。
きょろきょろしながらも、何かに気が付いたか、その貴族の列の端のほうにすっと加わるのだった。
- - - - -
神殿の楽隊が奏でる厳かな音に包まれ、新郎新婦が現れた。
誓いの儀式が始まる。
新婦である公爵家嫡女はオウドよりは頭一つ背が高いだろうか。
いつもまとめている銀髪をまっすぐに肩に垂らし、武闘派らしく背筋をピンと通して周囲を睥睨している。
純白のドレスと長いスカートがよく鍛錬された筋肉質の体を包み、その胸元は将来の希望の風をいっぱいに受けた帆のようにせり出していた。
筋肉質なところと背丈を除けば銀髪も優美な体型もアメリ先輩そっくりだよね。
オウドはついウェディングドレス姿の先輩を連想してしまい、ブルブルと頭からその妄想を追い払う。
新郎はまたオウドよりは背が低い。若いというか多分に幼く見える。
同じく純白の礼服に身を包み、帝国東部に多い少し長めの黒髪が伏し目がちな黒目を覆っている。
手には魔法学園主席卒業の象徴である魔導士の杖を握って上目遣いに花嫁のほうを見ていた。
成績優秀で繰り上げ卒業したので年齢的には花嫁と数歳しか違わないはずなのだが、見た目はずいぶんと離れている。
学園では彼が年齢詐称しているのではという噂もあったぐらいだが、本人は童顔なだけだと不機嫌そうに言うだけだった。
そもそも出生地の神殿でもないと産まれ年を把握していないし、年齢にこだわらない人も多いから詐称しようとも大した問題ではないのだが。
問題は公爵嫡女が新郎に一目惚れしたのが3年前だということだ。その時はもっと幼かった。
「あっ、へへへ」
「ふふふ」
何か儀式の手順を間違えたのか、回る方向がかちあって新郎と新婦の手と手が触れ合う。
お互いに赤くなって笑いあっている。まぁ仲がよさそうで大変いいなとオウドは思った。
なお、オウド自身と新郎のイメージが全然違うので新郎姿の自分の妄想はしなくて済んだ。
「それでは両家代表の方の前でお互いに誓いの儀式を」
祭壇の前に西大公と、新郎の母親と思しき婦人が並んで立った。
御婦人も年齢を重ねた雰囲気なのに顔が若い。童顔の一族なのだろう。
そして、その二人の前に新郎と新婦が片膝をたて、深く礼をする。
そして大神官が二人に祝福の言葉を述べようとした。
「二人は新しき家族として……」
その時、列の後ろの方で軽い騒ぎが起きた。公爵家の紋章官が騎士を連れて誰かを問い詰めているようだ。
「お静かに」
儀式を邪魔された大神官が参列者に注意する。
その時、参列者の列の端から祭壇の西大公に駆け寄ろうとした男がいた。
左手で右手をつかみ、引き抜くと禍々しい液体に濡れた刀が姿を現す。
刺客だ?!
「うわああ?!」
突如あらわれた凶器を見て、参列者たちが戸惑いと驚きの声を上げる。
「死ねぇ!!!」
祭壇に向かい、参列者に背を向けている西大公に向けて刺客が刃を振り下ろ……
すのと隣にいたオウドが刺客の膝後ろに蹴りを入れたのが同時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます