物語の構成力や描写力、作者様の作られた幻想的な世界観と、どれをとっても圧巻の一言の桜が織り成す和風ファンタジーです。
とある里に迷い込んでしまった主人公たち。そこには美しい女性たちが住まう遊郭があり、時同じくして運び込まれた一本の桜によって、里は少し、また少しと狂いだし──。
ネタバレはしたくないので、かなり簡略化したあらすじとしてはこのような内容になるのですが、それ以上に素晴らしいものがあります。桜から舞い落ちる花びらの様やその狂気、美しい女性たちと遊郭。細部まで練られ繊細に表現されたこの世界観と、ページを読み進めていった先にある二転三転する展開などと、物語としても主人公たちはとある里に迷い込みますが、読み手自身もそこへと引き込む魅力がある作品だと思います。
気になって頂けた方は是非御一読ください。この美しい世界へと足を運んで頂きたいです。
見事な構成と臨場感あふれる描写で、主人公とともに江戸時代の人知れぬ里に連れ込まれるような感覚。
幻想的な遊郭という閉ざされた場所での、美しくも奇怪な空気感が読むごとに濃さを増し、そこに植えられた桜が巻き起こす怒涛のような展開に息を呑みます。
桜には、その花の艶やかさや儚さとは裏腹に、どこか得体のしれない不気味さがあり、その独特な二面性が、謎に満ちた物語に素晴らしく生かされていると感じました。
隠れ里に閉じ込められた主人公たちに生きる道は残されているのか。じわじわと追いつめられるようなスリルと終盤にかけての圧倒的な迫力、そして細やかな人間の情が描かれた物語をぜひ味わってください。
物語の主人公・琴平(きんぺい)は武家屋敷で奉公している少年。彼は恩人である嫡男の虎之助(とらのすけ)や女中の松枝(まつえ)とともに屋敷を出奔し、辿り着いた先は、遊郭を営む隠れ里でした。
胡散臭い楼主、艶やかな太夫、遊女見習いの少女が織り成す華やかさの中に潜む違和感。そして、里に咲く美しい桜の花々には、どこか怨念めいた神秘さが漂っています。その花の精とも言えるような存在、カセイが現れ、物語にさらに妖しげな彩りを加えます。
隠れ里の謎が徐々に暴かれてゆく過程と、その結末に、読み手は驚かされることでしょう。
タイトルに含まれる『桜ノ奇』の「奇」という文字には、物語を通じてさまざまな意味が込められているように感じられます。「怪奇」「奇襲」「奇怪」から「奇妙」「奇跡」など。
『桜の奇』は、繊細な心理描写、美しく妖しい情景、そして驚きに満ちた展開が見事に織り成されたお薦めの作品です。
お話は、母を殺された主人公の琴平が、強くて優しい武士の主人に拾ってもらうところから始まります。
なるほど武士道かつ忠臣のお話かな?
と思ったらそのすぐ後に、えっ?そうなるの?と驚きます。
なるほどこうなるのか――と思ったらさらにまさかの衝撃展開がやってきます。
いい意味で裏切られまくります。
そしてお話はハラハラドキドキの展開に。
もう登場人物たちの行く末を心配しすぎて落ちついていられません。
さて、このお話の素晴らしいところは、目の裏に浮かぶような幻想的な景色です。
遊郭や桜がロマンチックで、そこに人の感情が丁寧な描写で重なっていきます。
ハラハラドキドキを味わいながら幻想的な世界で、登場人物達の行く末を見守りませんか?
どうか主人公……だけでなく登場人物たち皆に幸せな結末を――
とっても面白いです!