🥹「支笏湖ブルー 君が泣くから僕も泣く」は、短編ながら深い感動を与える作品です。
物語は、交際10年目の渡辺亮と和久井あゆみが北海道旅行中に支笏湖を訪れるシーンから始まります。あゆみは涙を止められず、亮は彼女を慰めようとします。
彼らは観光バスに乗り、札幌のホテルを目指しますが、あゆみはバスの中で違和感を感じ始めます。バスの乗客が次々と消えていく現象を目撃し、彼女は不安に陥ります。
そんな中、亮はあゆみを励ましながら、二人の関係や過去の思い出について語り合うのでした――
あゆみが涙を止められない理由や、亮が知っている未来の出来事が物語の核心を成しており、深い共感を呼び起こします。
また、支笏湖の美しい風景と、登場人物たちの心の葛藤が丁寧に描かれていて、物語に引き込まれます。
幻想的な描写や謎めいた展開がこの作品の魅力を引き立てており、一度読み始めると止められなくなるでしょう📖✨。
まず、登場人物の心理描写が素晴らしいです。綿密なのですが冗長ではなく、しっかりとポイントを押さえた描写なのですよ。
なのでキャラクターたちの気持ちが、ヒシヒシと伝わって来てその思いに否応なしに共感させられるわけです。
その素晴らしい心理描写をしつつ、物語は進んでいきますが不意に、幻想的というか不可思議というかそんな展開が始まり、この作品のキモの部分へと入っていきます。
ここからのドラマも、作者様の秀逸な心理描写に彩られ涙を誘われました。
また、支笏湖もこの作品の構築に一役買っており舞台装置以上の役割があります。
一度読み終えた後、もう一度最初から読み返してみると伏線に気がつくという楽し方もできると思います。
水中で、ゆらゆら揺れる髪におずおずと手を伸ばしかけて、結局引っ込める。そんな感覚を持ちながら読んだ。
バスと湖という組み合わせは、ありふれているようでいてなかなか読んだことがなかった。北原白秋は、からまつはさびしかりけりと詩に書いたが、差し詰め湖は切なかりけりというべきか。
本作では、バスという動く閉鎖空間の中で、一人一人の登場人物が主人公の視点を通して丁寧に描かれている。その様子は、当人の恋愛と相まって叙情でもあり記録でもある。
記録。本作は、忘れてはならぬものを記録する行為でもある。読者一人一人の心にも、しかと焼きつけられることだろう。私がそうであるように。
必読本作。
乗客が消えていく観光バス。眠りに落ちた人から次々と消えていく。
やたらと話好きの乗客。我も我もと家族のことを、友人のことを話しだす。まるで誰かに何かを伝えたがっているように。
そして――――痛みに目を覚ます。それが生きているという証拠だから。
この作者様の作品の特徴かもしれませんが、読者に最初から『正解』を教えてはくれません。敢えて最も重要な部分をぼかしたままお話が進められ、さんざん考えさせた上で最後に答え合わせが待っています。
そして全てを理解するとまた最初から読み直したくなる、納得した上で今度は言葉遊びを楽しめるという、隅々まで工夫が凝らされた物語です。
一度目は霧の中を手探りで進むような不安を、二度目は計算された言葉遊びを、是非お楽しみください。