第27話 百貨店

 暖かみのあるオレンジ系の照明に、圧迫感を感じさせない高い天井、小綺麗な服装をした人に溢れかえる店内。


 チィコは人の多さにはしゃぎ、ドンテツは相変わらず、建物の構造が気になるらしい。

 

「おお! ひっろーい! 人もたくさんいるねー! 長いエスカレーターもあるじゃん!」


「本当ですね。まるでゴミようです。ですがエスカレーターより、後ろにあるエレベーターの方が色々と見渡せますよ? ゴミの様子とか」


 カルファに関しては、人混みを見つめてニヤニヤしてる。


「やめんか、その漫画とやらからとったセリフ。儂ら以外にも客はおるんだからの」


「別に迷惑をかけているわけではないのですから、いいではないですか。それに――」


「――それに?」


「これのセリフは、漫画でなくて小説ですし」


「いや、どっちもいいわい」


「ドンテツに完全に同意や。カルファ、日本を満喫するのはええけど、人の多いところであんまアホなことは言うたらあかんで」


 ドンテツには申し訳ないけど、今日は引率するので手一杯になりそうし、ツッコミは任せよう。


「そうだよ、カルファ! 人を傷付けることを言ったらだめなんだよー」


「トール様に、チィコまで……私はちゃんと声のボリュームとか考えてですね――」


 ちょっとドンテツに負担がかかってる気はするけど、皆楽しそうで何よりや。


 この百貨店は九十年近くの歴史をある上、品揃えも豊富で、地下一階から地上七階まである。


 地下一階は観光客、出張で訪れた人向け。


 地下鉄へ直結する道に繋がっており、旅行や出張で訪れた人向けに地元のお土産や名物が取り揃えられてる。


 一階については、女の子が喜びそうな貴金属に有名ブランドの化粧品の数々。


 普段から化粧っ気のない、カルファが興味を持つかはわからへんけど、何でも経験。


 特にカルファは僕らより、長生きすることが確定してるわけやし、経験せんまま歳をくってしもたら若い子に毛嫌いされるのが見えてるしな。


 まぁ、友達が出来てから、少しは興味持ち始めたみたいやけど。


「色んなものに触れて、ちゃーんと見識を広めんとな」


「ど、どどどうしたんですか?! いきなり私の頭を撫でたりなんかして!」


「いや、特に意味はない。なんか撫でたくなった。ただ、それだけや」


「撫でたくなったそれだけって……意味もなく、女性の頭を撫でてはいけませんから!」


「はいはい」


「って、また撫でるー! 全然わかっていないじゃないですか!」


 頭を撫でることに敏感なお年頃なカルファは置いておいて。


 二階から四階にかけては、ファミリー層を狙ったインテリア家具に寝具、ファッションなんかがテーマ。


 やから、他の階より家族連れが多い。


 ちょっと面白いのが、地酒のお店とかもこの階にあったりする。たぶん、休日のお父さんをターゲットにしてるんやと思う。


 ファッションはともかく、インテリア家具に地酒とかならドンテツにピッタリの場所や。


「な、なんだ? 今度は儂か?」


 カルファを見てみたのか、ドンテツは身構え顔を赤らめている。


 完全に毒されてやん。まぁ、ああも毎日BLがどうのこうのと言われてたら無理もない。


「あはははー! それはないて。同性の僕に撫でられても嬉しないやろ? 仮にするにしても、もっと相応しい子おるみたいやし」


「わわっ、儂に相応しい子?!」


「ほら、あの子」


 僕は鉄を打つ真似をする。


 すると、ドンテツの赤くなり小声で耳打ちしてきた。


「トールよ、ここで言わんでくれ。カルファがおると色々とややこしい」


「ははは……もう遅かったみたいやわ」


「えっ!? 何ですか?! 髭モンジャラドワーフに相手が?」


「はぁ……」


「あはは……ごめんごめん」


 実はドンテツには好きな子が出来た。

 

 相手は先月、働き始めた月乃屋商店の看板娘である雪子さん。ドンテツの話によると若いけど元気で頼りがいのある強い女性らしい。 


「人の色恋沙汰は、お、面白半分で口にするものではないぞ」


「面白半分とはちゃうけど、今ではなかったね。はは……」


「いやいや、絶対今ですよ! だって、私たち全員が揃っているんですから!」


「ふぅ……めんどくさいの。そういう意味ではない」


「めんどくさいってなんですか! パーティメンバー内での隠し事はご法度でしょう? 現に私は一日起こった出来事を包み隠さず、一言一句逃さず話しています」


「いや、カルファ、そっちの方がおかしいからね」とか言ってしまうと、買い物をする前に一日が終わってしまうのでグッと堪え、一人案内図に夢中となっているチィコに声を掛けた。

 

「チィコはどこの階がいい?」


「ボクはね、色んな物を食べたいかなー。こことか!」


 チィコが指を差したのは、レストラン街のある五階、六階の案内図。


「そうかそうか、ほんなら上にいかなあかんね」


 五階から六階は飲食店が参入しており、日本っぽい寿司やったり、マスコットキャラクターが可愛い粉モン系の店、人気オムライス店とかジャンルは多岐に渡る。


 ここは言うまでもなく、素直で可愛いチィコの為。


 まさか僕の想いを汲み取ってくれるとは、無意識やろうけど、めちゃ嬉しい。


「上かー! あ、じゃあさ。このイベントって書いている一番上は? ここには何もないの?」


「あるっちゃあるけど、今は絵画展が開かれてる時期やからなー興味あるんやったら、行ってみてもええけど」


 一番上、七階に関しては季節のイベント毎に展示してるもんとかが、その時々で変わる。


 バレンタイン、ホワイトデー、ハロウィン、クリスマス、年越しといった感じに。


「そっかー、絵画とかはまだボクには難しいかなー。絵が凄いっていうのはわかるけどさ」


「せやな、芸術とかは奥深いしなー。僕も気分転換に見たりするけど、まだ本質はわからへんしな」


「へぇー……トールでもわからないんだ! じゃあ、まだわからなくてもいいかな♪」


「ふふっ、そうか。ほんなら、取り敢えず飯行こか」


「うん、あ、でも二人はいいの?」


「大丈夫や、そのうち飽きてやめるやろうし、ドンテツにはかんたんスマホ持たせてるしな」


「そっか! じゃ、問題なしだね!」

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