1-12. 5月……勉強しよ?(4/4)
ちょっとしたあらすじ。
テスト勉強のために
脳内の
ど、ど、どうするよ、俺!
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
緊張している俺のものなのか、ぎゅっと抱き締められて密着している美海のものなのか。そんな判別さえできないほどに俺は
唯一の救いは、隣に座った状態から頭を抱き締められているので、自然と前屈み状態だという点である。それ以上は察してくれ。
しかし、腰に負担がかかるので長時間は辛そうだ。
「み、美海? 美海!? 美海さん!? 起きてくれますか!? おーい!?」
「むにゃ……ノティ……暴れないで? ほら、なでなでやよお?」
おわああああっ! 悪化したあああああっ!
ついには頭を撫でられ始めて、美海が動くたびに良い香りがしている気がして、それで性なる欲望を刺激されて、結構きっつい! 超かなりきっつい!
って、ノティってたしか、美海が飼っている犬の名前だと思ったけど。そうか、俺、今、ノティ扱いで抱きしめられているわけか。
つまり、夢の中で俺が求められているわけではない。
落ち着け、落ち着くんだ。俺は今、犬だ……犬なんだ……って、違うわ! 犬に間違われているだけで、俺は犬じゃないわ! テンパり過ぎなんだよ、俺!
ところで、犬種知らないけど、ノティって割とでかいのか?
「美海、聞いてくれ! 俺の限界が来る前に離してくれ!」
「もうご飯は食べたでしょ?」
俺はぼけ老人かな?
「俺はぼけ老人かな?」
ダメだ、美海は完全に寝ぼけているっぽい。ちなみに、その返しは、犬相手じゃなければ、ぼけ老人の鉄板ネタみたいとか思って、もう余計なことまで考えて気を紛らわすほかなかった。
「美海……起きてくれ……」
気を紛らわすんだ。俺。
というか、あれ? 意外と美海って小さいからスト……スラっとした感じなのかと思っていたけど、俺が思っていたより……こほん……超絶失礼なことを思ってしまったので、リテイクさせてほしい。
では、改めて。
というか、あれ? 意外と美海って身長が小さいから、正直スタイルもスラっとした感じなのかと思っていたけど、着痩せってやつなのかな、この頬に当たる感じとかブラをつけて少しごわごわと固い感じがしているから柔らかい感触とかは一切皆無なんだけど、俺が思っていたより……って、リテイクしてもほとんど同じじゃないかよ!
というか、悪化しとるわ! 誰が描写を増やせと指示したよ!? 胸の話から離れろよ、俺! 頭の中、それでいっぱいにし過ぎだよ!
「んふふ……くすぐったいよお……ペロペロしないでえ?」
え、待って? してません。
神や仏に誓って、そんな不埒なことはしておりません。
清廉潔白、事実無根の風評被害です。なんだったら、俺は俺から触らないように、全身を岩のように硬くして固まっています。
だけど、犬とか猫とかいいよな。好きなだけペロペロしてもむしろ喜ばれるからな。
「美海? 俺はそんなことしてないぞー、そんなことしてないからなー? いい加減起きてくれるか? 頼むから誰かに見られる前に起きて一旦離れよう!」
多分、俺が美海の身体を触って、ぐいっと力を入れれば、簡単に離れるはず。多分。なんか、若干力が強い気もするけど、それでも俺は一応男だし、美海の力よりもきっと上だ。
触れればな。
触ったらすべてがご破算になる気がして、触れないでいる。
「もう、ノティったら、変なところ嗅がないでよお、もー」
だから、してません。
神や仏に誓って、そんな不埒なことはしておりません。
清廉潔白、事実無根の風評被害です。変な所ってどこかによるけど、俺は横顔を美海の身体に押し付けているかのように抱きしめられた状態なので、嗅げるとすれば、脇や二の腕です。
……あれ? 十分に変な所か? いや、待て待て、嗅いでないぞ?
普通に鼻呼吸で息をしているだけだから!
「なんか美海はずっと寝ぼけたままだし、俺はどうすりゃいいんだ……」
「……助けてあげようか?」
不意に司書の声が聞こえた。
「司書さん!? 助けてくれますか? ってか、いつの間に準備室からこちらに!?」
「えーっと、ノティ、暴れないで、くらいから?」
だいぶ前から見ていたんかい!
「だいぶ前から見ていたん、ですね!?」
俺が必死な思いで男子高校生の膨れる欲望を抑えている中、なんで司書は無言でやり取り眺めているんだよ!
絶対にニヤニヤしてるだろ! 絶対にニヤニヤして楽しんでるだろ!?
「うん、面白かったから。いや、高校生だし、ちょっとえっちぃことくらいするかなって思って眺めていたんだけど、でも、君が思いのほか真面目な生徒で引き剥がすためでも触れないって分かって助けてあげないとかわいそうかなって思い始めたんだよね」
判断が遅い!
「判断が遅い!」
「まあ、いいじゃん。真面目とはいえ、彼女の身体に全集中くらいはしていたろ? 嗅いでいたなら、呼吸とか型とか作ってた?」
そのパロディネタで引っ張るのやめい! 使いやすいからって安易にネタを連続で出すんじゃないよ!
パロディネタってのは適度にテンポよく出すから面白いんだよ!
「嗅いでません! そろそろ、助けてもらえますか? こればかりは申し訳ないけど、お願いしたいのですが……」
「それはいいけど、いいの?」
俺は美海に抱きしめられたままで、顔が見えないけど、司書の言葉が少し真剣そうな声色になったので、何か俺が思いついていないことがあるのかと頭を高速回転させる。
でも、分からなかったので、諦めて訊ねることにした。
「えっと、早くこの状況を脱することに何が悪いのか、分からなくて……何かありますか?」
「え? まだペロペロしてないよね?」
んなことするかあああああっ!
「んなこと、しませんけどおおおおおっ!?」
結局、司書さんが俺の頭から美海の腕をほどいてくれた。けっこうしっかりめに動かされたはずの美海はまだ薄らぼんやりのお寝ぼけ状態だった。
こうやって見る分には、ぽやぽやしていて、目をこすこすし始めて、はい、かわいい。
「んぅ? ん-? ……はっ!? あれ!? ウチ、寝てたの!? あれ? 司書さんもいる?」
「もう帰る時間だから、帰ってもらいたくてね。でも優しい彼氏がもうしばらく待たせてほしいってね」
司書は俺の味方になってくれたようだ。先ほどのことはなかったことにしてくれて、急に覚醒した美海の疑問に答えている。
「えへへ……彼氏さん……あっ! 仁志くん、ごめんね。司書さんも、すみません。ウ……私、寝ると中々起きなくて……」
中々どころか全然起きないって、知ってる。というか、今日さっき知った。
「俺はいいんだ。美海の寝顔を見ているのも楽しかったから」
「あぅ……寝顔見られるの恥ずかしいよお……」
「見なきゃ起きているかどうか分からないからな」
寝顔どころの話ではなかったが、まったく何も見ていなかったというのもなんだかおかしな話なので、寝顔くらいで手を打とうと思っていた。
「真面目な彼氏さんだよねえ。キスくらいするかと思って眺めていたんだけどね」
「キ……し、してないよね!?」
「してない! そんなことしてない!」
「……だよね! そうだよね!」
「あーあ……なるほどね。若いっていいね」
恥ずかしがる俺、コロコロと表情を変えている美海、終始ニヤニヤしっ放しの司書はその後、夕方の最終チャイムに急かされるように解散した。
俺は自転車、美海はバスだったので、バスが来るまでの間は雑談をして楽しく過ごす。もちろん、告白するムードもへったくれもなかったので、また今度の機会を窺うことにした。
しかしまあ、今日はドッと疲れた一日になってしまったな。
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