第17話【難易度】エクストラ【狂気】

「ぜぇはぁ。ぜぇはぁ……」

「はぁ……。はぁ……」

「ひぃ……。ひゃぁ……」


結論から言おう。

既に満身創痍です。


深遠第10層を攻略後、出現した魔法陣の中でオレたちは息を切らしていた。


深遠は5層毎に一時的にボスの出現を停止させる魔法陣が出現する。

その魔法陣へ魔力を流すと次のボスが出現するという仕組みだ。

逆に魔力を流さなければ一定時間後に魔法陣全体が赤に変わり301層へ強制転送される。

なお、一定時間と言っても数時間くらいあるのでそれなりに休息は出来る。

出来る……のだが、今の状態を完全回復させるには回復魔法を使わなければ無理だ。


まさか、回復禁止で復調リカバリーが使えないのがこんなにキツイとは思わなかった。


6層までは強化バフ込みで、槍聖と弓聖がボス2体を受け持つ事ができたのだが、7層からは槍聖と弓聖がそれぞれ1体ずつ、オレが残りのヘイト管理となってバランスが崩壊した。

槍聖と弓聖の面倒を見つつ残りのボスにフルボッコにされるオレ。

なぜならオレが軽~くボスへ反撃しようものならボスのヘイトが2人へ向いてしまうのだ。

おかげでヘイト管理のために身を挺して2人の壁をするために東奔西走する羽目になった。

結果、精神と体力がゴリゴリと削られて酷い事になった。


解せぬ……。


いや、まぁ、でも支援の練習としては収穫があった。

あったと思う……。

いや、思いたい。

もうね。2人とも途中から攻撃受けたら致命傷。下手すりゃ即死みたいなものだったから一瞬の判断ミスも許されなくなっていた。


やはり、弱体化デバフと回復無しはきついよ師匠ぉ……。


「ど、どうする? 11層へ行ってみるかのう?」

「そ、そうですね。せ、せっかく此処まで来たので」

「な、なに言ってんの? 2人とも膝笑ってるだろ? そんなのでまともに戦えると?」

「わ、私はまだ大丈夫です。り、りのさんこそ、大汗かいて肩で息をしていますが大丈夫なんですか?」

「オレのレベルいくつだと思ってるんだ? 後、この中で一番(見た目が)若いのオレだぞ?」

「クハハ。プレイヤー歴が一番長いのは儂だがのう!」


「そこ張り合うところですか……」


オレと弓聖の応酬に対してジト目になる槍聖。

え? やだな。冗談なのにそんな真顔で見なくても……。


「なら11層のボスだけ味見していくか? 流石に勝つのは無理だと思うから状況見て帰還させるけど」

「う、うむ。儂としても今後の参考にしたいからのう」

「は、はい。それでお願いします」


どっこいせと時間を掛けて立ち上がる弓聖に、ハルバードを杖代わりにして立つ槍聖。

うん。駄目だコイツらもう満身創痍だ。

もう見たら帰ろう! そうしよう!!


「開始するぞ」


オレは魔法陣へ魔力を通した。

魔法陣が消え、周囲を覆っていた霧が晴れる。と――


「ヤバッ!? ――ッ。転送テレポート

「え? 何をッ!?」

「う、うむッ!?」


ソレを見た瞬間、オレは有無を言わさず槍聖と弓聖を301層へ強制転送する。


「――ッ。シールド縮地ショートムーブッ」


前面に盾魔法を多重展開。

同時に縮地で回避を実行。


――直後、展開した全ての盾魔法が破壊された。


縮地の到達地点で、再度縮地を実行。

ソレの背後へ。


そこから更に縮地。


背後に注意を引き付けたところで、ソレの真上からありったけの攻撃魔法を――


「――え?」


しかし、そこにソレの姿は無かった。


「――遅い」


直後、オレの意識は暗転した。


………………

…………

……


「うぅ……」


目を開ける。

見覚えのある室内。

頭の下には柔らかな何かと、頭を撫でる手の感触。


「此処は……、師匠の部屋……?」

「目が覚めましたね?」


オレの視界にニュッと顔を出しニコリと笑う赤銅色の瞳を持つ黒髪の幼女。

耳の横で結んだお下げがはらりとオレの顔に掛かり……。


「ふぇっくしょんッ!?」


鼻に触れた髪がくすぐったくて思わずくしゃみをしてしまった。


「うぅ……。アレが乱入とか聞いてないんですが?」


気恥ずかしくなり、誤魔化すために起き上がって文句を言う。


「あはは……。私も予想外でした。――なんて言ってたと思います?」


そう言って師匠は苦笑いを浮かべた。


「どうせ面白そうだからとかですか?」

「そのとおりです。よくわかりましたね」

「面白そうだからと一発KOされる身にもなってほしいんですが……」


しかも、こちらは満身創痍の状態で。だ。


周囲を見渡す。やはり、師匠の部屋だった。

場所が確認済んだので座卓脇の座布団へ座り直す。


「聞きたくは無いですけど、何か言ってました?」

「準備運動にもならない。出直してこい。だそうですよ」

「いや。そもそも11層に乱入するのがオカシイでしょ。なんとか言ってやってくださいよ」

「話を聞くと思います?」


また苦笑いを浮かべる師匠。

うん。全く思えないな。

アレは言ってみればダンジョンの裏ボスみたいな存在だ。

オレと師匠の二人掛りでなんとか遊んでもらえるレベル。

バケモノ中のバケモノ。


「クハハ。素直に話を聞く姿なんて全く想像できないですね」

「そうでしょう。フフフ」


そして、可笑しくなってお互いに噴き出すオレと師匠。


「それで特訓の成果は得られましたか?」


オレへカフェオレを振る舞う師匠。

一口飲んでわかる。これ凄く良いヤツだ。と。


「縛りがきつ過ぎます。正直、弩Sの所業かと思いましたよ。でも深遠あそこで2人の介護は良い経験になりました」

「あはは。それでも10層まで行くのだからりのさんは十分に度Mの素質があると思いますよ? 正直、槍聖か弓聖のどちらかはもっと早い段階で脱落すると思っていました」

「な、なるほど……」

「そうですよ。乱入は本当に想定外でしたが……。はふぅ~」


師匠はカップのココアを飲んで頬を緩ませる。

ホント、甘いもの好きだよなぁ。

人のことは言えないけど。

ま、オレも師匠もお子様舌だから仕方ない……。

肉体が完全に変化してしまうと嗜好そのものも変化してしまうのだ。


ああ。ちなみに師匠も元は男だ。それも俺より二回りは上の爺様だ。


それから暫く雑談をして、先日の骨折の件を窘められてから解放された。


戻ったら槍聖に問い詰められたが、件の裏ボスについては誤魔化した。

後、師匠に会ったことも伏せておいた。

言うと大変な事になる。

本当、女になっても女心はわからんな。

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