第19話 三者三様に近づく者 2

 その夜。

 とある商人一行の馬車が闇夜の森で、横転させられていた。


「敵襲! 鬼人が一人! てきしゅ――グッ……!」


 馬車を止めたのは一人の、角の生えた鬼人だ。

 

 角の男は岩で出来たメイスを片手に、周囲を守る護衛たちを叩き潰していた。

 今、残っているのは、残り数人となった護衛、馬車から転げ落ちた商人とその息子、そしてその息子が抱える召喚獣一体だけだった。


 護衛が遺したかがり火で、鬼人の顔を見た商人は叫ぶ。


「き、貴様! どこの鬼人か知らないが、私が、ロザリンド商会の幹部だと知っての狼藉か!?」


「あん? オレァ、命令通りにやってるだけだぞ? まあ、脆い奴らを殺すのは楽しいし、好きだから。望んでやってるけどよ」


「きゅ、急に現れて、襲い掛かってくることが命令だと!? ふざけるな! い、行け、お前達!」


「うす!」


 剣を持った護衛隊の精鋭が飛び掛かる。

 

 ……馬鹿が! 大金を払ってそろえた護衛だ! 冒険者としても高クラス。奇襲ならともかく、真っ向から挑めば……!

 

 当然のように切り殺して終わりだ。

 商人はそう思っていた。だが、

 

「ふん」


 メイスの横なぎ一発で、精鋭は横合いに吹っ飛んで、動かなくなった。

 

 それを見て怯えた目をした商人の息子は、抱えていた体長一メートルほどのサラマンダーを地に下ろし、

 

「さ、サラマンダー! やれ! 炎を浴びせろ!」


 鬼人に指をさしながら命令した。

 サラマンダーは、契約者の命令に従い、

 

 ――ゴオ!!

 

 と、炎の放射を浴びせかける。

 

 大気を揺らがせるほどの熱が、鬼人に向かうが、 

 

「ぬりいな」

 

 鬼人は真っ向から炎を受け止めた。


「炎が効かない……?」


「馬鹿な。サラマンダーの炎は、大抵の生物の体を焼き尽くすというのに……!」

 

 商人の息子と護衛達は目を見開いた。


 たいていの生物にサラマンダーの炎は効く。当然、鬼にだって効く。

 だからこそ、召喚獣の中では強い部類に入るとされ、護衛獣としても人気な存在なのだ。けれど、それが全く通用していない。


「た、ただの鬼人ではない……?!」


「そりゃそうだ。召喚士は殺す。人間に与した獣も殺す。特に指定された竜は念入りに殺す。それが俺たち、魔王サマ直属の滅竜獣者(ドラゴンベイン)の存在理由だ。軟な作りにはなっちゃいねえ――」


 炎の中、鬼人は歩いてきて、そのまま、


「――よっと!」


 放し終えると同時にサラマンダーの頭を踏みつけ、そして、そのまま潰した。 


「ぼ、ボクのサラマンダーが……!」


 愕然とする商人の息子の横で、護衛の一人は眉をひそめていた。


「き、聞いたことがあるぞ。改造体の中でも高位のやつらは、知能も高く。連合軍に多大な被害を出したって……」


「おお、高位って言われるのは嬉しいねえ。名前はグレンデル。覚えて死にな」


「ぎゃ」


 言いながらグレンデルは、持っていたメイスを護衛の一人に向けて振るった。護衛はそれに貫かれ、動かなくなった。

 

「ま、魔王一軍の残党がどうしてここに……!」


「まあ別に、魔王サマが死んでも、標的を殺すのが好きだからやってるだけで。魔王サマ云々は関係ねえんだよ。感覚としては酒を飲んだり、美味い飯を食うのと変わらねえくらいでな。……しかし、お前らから薄っすら、竜のニオイがするのに、こんなショボイ奴が一匹ってのは、解せねえなあ」


「に、ニオイだと?」


「オレの頭の中には、倒すべき標的のニオイと姿がインプットされているんだよ。アンタら人間でいうところの手配書みたいなものだな。魔王様に作られた時から、そいつらを倒すまで頭の中から消えねえんだ。それがうざったくてよお」


 言葉はイライラしているようだが、表情は笑みのままグレンデルは言う。


「護衛っぽい奴らも、ニオイに適合する竜は持ってなかったし。……まあ、いいや」


「ぐっ……!」


「これで、武器を持ってるやつらは消えたかな」


 話の片手間で、護衛達は全員、殴り倒された。

 もはや息があるのは、商人とその息子のみで、


「に、逃がして……くれ……」


 商人は、怯えた表情でそう言った。


「あん?」


「狙いでないのなら、逃がしてくれ……! 持ってる金は、全ておいていくから……! ここにある金があれば、美味い飯も酒も、いくらでも食えるぞ!」


 そのまま地べたに頭をこすりつけながら、商人は言う。

 それに対し、ふむ、と顎に手を当てた鬼人は、

 

「俺が酒と飯が好きって話をしっかり聞いてたか。……なら、良いぞ」

 

 そう言ってグレンデルは笑い、

 

「オメエらは別に召喚士でもなさそうだし、逃げろ逃げろ。別にオレァ、人間を殺すよりも好きなことがあるからな

 

 ドスッ、とメイスを地面に置いた。


 それを見た商人は、息子と顔を見合わせ、

 

「――!」


 脱兎のごとく逃げ出した。

 

 必死の表情で、馬車の残骸を乗り越えて、そのまま森の外へ向かおうとした。

 

 ……このまま宿場町に逃げ込んで、助けを求めねば……!!

 

 そして、国に、ギルドに、魔王の一軍の残党がいたことを報告せねば、と重い体を揺らしながら走っていた。だが、

 

「あっ……!」


 隣の息子が急にこけた。

 

 ……何をこんな時に……!

 

 思いながら、手を伸ばそうとして、気づいた。

 

 息子の背中に、炎をまとったメイスが突き刺さっているのを。

 

 ドズン!

 

 という重い音を立てて、息子の亡骸に巻き込まれるようにして、商人は吹っ飛ばされた。


 息子を貫いたメイスは、そのまま商人の脚も一緒に砕いていた。

 

「ど、どうして……」


 動けなくなった商人はメイスが飛んできたであろう方向を見た。そこには、歩いて近づいてくるグレンデルがいて


「言ったじゃねえか。好きなことがあるって。――オレは、生き物を一方的に殺すのが一番好きなんだよ」


 そのまま、商人の意識は闇に包まれた。

 


 メイスを適当に振るい汚れを落としてから肩に担いだグレンデルは、破壊した馬車の残骸を見て、


「さて、この馬車が来た方向のニオイを辿っていくとするか。ほかの召喚獣のニオイも混じってるしな」


 再び、歩き出していく。


 ――――――――

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