おまけの話
「……ん」
眠たくなる世界史の授業中、斜め前の方の席で授業を受けていた柊木とまたまたぱっちりと目が合う。
この授業は受けている人が少ないから目が合うチャンスは多いけど……ふふっ、柊木よそ見しちゃダメだよ、俺もしてたけど。
「……! ~~~!」
やっぱり少し恥ずかしそうに一瞬顔を逸らした柊木だったけど、今度はスッと自分から笑顔を俺の方に向けて小さく手を振ってくれる。
グラウンドの時よりは控えめで可愛い振り方だけど、届きそうな近い距離にいる分それは大きく見えて、狭い空間にいる分余計にヒミツで背徳感を感じて、余計に嬉しさとかが増して。
「……!」
「……!!! ~~~!」
大きく手を振ろうとした俺を慌てたように、でも嬉しそうにウインクしながら口元に指をやって「しーっ」のポーズでいさめてきて……危ない、危ない。興奮しすぎちゃダメ、バレるバレる。
ここは俺も小さくバレない様に、でもしっかり笑顔で笑顔で手を振る柊木に手を振り返して……ふふっ、やっぱりすごくドキドキして、めっちゃ良い!
静かでみんなが集中している教室で、二人だけのヒミツの時間を、空間をバレない様にこっそり作ってるみたいで……ああ、これ凄く良い!!!
「~~~! ふふふっ、亜理紗~」
「てなわけでぇ、このことからぁ……ってあれぇ? 鮫島君、どうかしたのぉ?」
「あり……え、あ、中竹先生? ど、どうかしました?」
「どうかしましたじゃないよぉ。鮫島君、さっきから手をふりふりしてたからさぁ、何かあったのかなぁ、って思ってねぇ」
しばらく二人の時間に入り込んでいたけど、その時間は教卓の上で教鞭をふるう中竹先生ののんびりした声に阻まれる。
ていうか中竹先生、普通に気づいてる風じゃん。
どうしよう、柊木に迷惑かかるのは嫌だし……あ、そうだ!
「いや~、すみません先生。ちょっと大きめの虫がいたもんでね、追い払おうとしてたんです! いやー、でっかいアブでした!」
虫だ、虫追い払うときあんな感じなるでしょ!
これでごまかしてくれ、誤魔化されてくれ!
「え~、本当にぃ? そんな虫、先生困っちゃうなぁ」
「はい、だから追い払っときました! ご安心ください、中竹先生!」
「そっか、ありがとねぇ、鮫島君。でもでも授業はしっかり聞んだよぉ! よそ見しちゃだめぇー! あと、あんまりいちゃいちゃしすぎるのも禁止! ちょっとならいいけどねぇ! それじゃぁ、授業戻るよぉ!」
「……え?」
少し不穏な声が、サッと授業に戻った先生から聞こえたけど……気のせいだよな?
うん、大丈夫だよな、大丈夫だよな。
「……いてっ」
そんな事を考えながら、流石に授業に戻るかとノートを見るために顔を下げた瞬間、頭に軽い衝撃、机に転がる丸まった紙。
「……なんだよ、もう……ふふふっ」
飛んできたであろう方向を見ると、「怒られてやーんの!」という風に顔を綻ばした柊木が、少し赤らんだ顔でからかうようにペロッと舌を出して俺の方を見ていて……全く誰のせいだよ思ってんだよ。
「もう、柊木は……ふふふっ」
だから同じように俺も笑顔でペロッと舌を出す。
その顔を見た柊木は相変わらずの笑顔で「前見ろ!」という風につんつん指を前に向けて……だから誰のせいだと思ってんの、ホント!
「鮫島く~ん?」
「いえ、何でもないです、授業集中します!」
☆
部活が終わって帰宅し、ドアを開ける。
今日は比較的ストレス少なめの部活で進捗ヨシ、毎日これならいいのに……ってあれ、父さんの靴がある、珍しい。
「ただいま~。もう父さん帰ってるの?」
「お帰り、鮫島! 今日も部活お疲れさま! 今日はおじさん早く帰れたんだって。さっき鮫島とパワプロしたい! って言ってたよ!」
「柊木こそお疲れ。今日もエプロン似合ってるよ、いつもありがと……そっか、じゃあ夜ご飯前に一戦しようかな?」
「えへへ、ありがと……うん、そうして! まだご飯、ちょっと時間かかるし、おじさんもすごいうきうきしてるから早く行ってあげて……あ、あと鮫島さ、もうちょっとだけ話していい?」
たまには父さんボコって楽しもうか、なんて考えで階段を登ろうとすると柊木にいつものように呼び止められる。
ふふっ、ダメなわけないよ、何なりとお申し付けを!
「もう、何その言い方……あ、あのさ今日は教室で鮫島、私に手振ってくれたじゃん? あれ、その……す、すごい良かった! なんか、うまく言えないけど……すごいドキドキした! グラウンドよりも凄く良かった!」
もじもじと身体を揺らしながら少し興奮気味にそう話す柊木……ふふっ、俺も同じ。なんか教室だと色々狭くて背徳感ですごくいいよね!
「うん! あ、でも教室ではほどほどにしないとだね……すぐばれちゃうし、いっぱい怒られちゃうかもだし。だから、教室ではヒミツもほどほどに、ね?」
「今日も怒られかけちゃったしね……でも、教室は俺の方が席後ろなんだから柊木が振り返らないと目は合わないんだよ? 今日もだけど、柊木が俺の方を見ない限りは始まらないんだよ?」
「え、あ、それはその……だって……ううう、言わせないで早く着替えてきなさい! リビングでおじさん待ってるんだから!」
焦ったように、恥ずかしそうにそう言っていつものように俺の背中をずんずん押して……ふふっ、これもいつものパターンになってきたな。これからもずっとこう言う事、していけたらな、なんて。
「……鮫島、早く降りてきなよ」
「うん、わかってる」
「それじゃあ、下で待ってる……!」
「……ふふっ、柊木!」
そう言って学校みたいに、恥ずかしそうに小さく手を振る柊木に、俺は満面の笑みで同じように手を振り返した。
★★★
感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます