Track 009 MAY I REMEMBER THE DEAR DAY, PLEASE?
こんなやり口が、もし、その定義を満たすというなら――
音楽を創るということ。
そして、音楽を奏でるということ。
全ては
小学校への通学路、ぼくが
こんな朝は、こんな朝でも、瞬間は残らない。今なんて、まるで残ることがない。
ズボンのポケットで――最低限の配慮で
ここで見かけた子供達のいくらかは、もう、
さて、自分の誕生日はいつだったかな、と、
どうせ無駄、それが
最初から、知れていたろう。思ったよりずっと早かったなと、あるいは苦笑する、あるいは歓迎する、それはできるけれど。
終わるべきだ。
今だから。
終わらない今がどこにある。
世紀のライヴだとか、とんでもない冗談だな。コドモのやり納めに過ぎないよ。もっとも、思い残しは少ない方がいいな。やるだけやるさ。今日くらい、いくらだって。いくらか誕生日より先んじても、今日がいい。式を挙げない理由もないことだしな。何やら準備は大変だろうよ。がきのままそれをするわけにもいかないし、何せ、
一谷史真を、ただの
――あんたは何を思った。ぼくが
あんたが後悔していることを、繰り返すつもりはないよ。ただ、ぼくは、あんたを反面教師にしたいとは、どうしたって思えないんだ。不都合な現実は確かにあったさ。あんたにとっては
どんな苦しさと傷と引き換えにしてでも、弾きたかったよ。
ついに叶わぬことを認めた、だから、今がある。
やっぱり、ぼくは思えない。
負けて
あんたはやっぱり、世界一のピアニストなんだよ。
それを、この世の誰よりも、ぼくははっきり知っているよ。誰よりも辿り着きたかったぼくだから。誰よりも信じたぼくだから。誰よりも、誰よりも――
追わせてくれたよ。ぼくに。あんただったからこそに。
だから、今、分かるんだよ。
どうしたって、変えられないんだよ。
泣き出してしまった、
――どうして、おとうさんみたいな音がでない。
今となって、そんな自分を、馬鹿とも思えない。なあ、いつかのあの日のぼく、お前は最初から正しかった。この世の誰もそうとは言わなくとも、ぼくだけは認めてやる。
どんなに下手でも、どんなにか無謀でも、一谷史真に憧れ続けて、一谷史真を追い続けて、同じに弾きたかった。そんな愚かの極まるやりよう、ぼくの
――それがぼくのピアノなんだよ。
自分というもののない、悪い
――変えない。
もし、コドモを、たったひとつだけ残すことが許されるなら――
ぼくはそれがいい。
――――――――
そろそろぼくも、危機感を持つべきではないのか。
何か
もともとは
女性専用楽屋の前の廊下、閉ざされたドア越しに室内の様子を
楽屋の中、姫名が章帆に確認をするのは、
着ることの
今回は、ロックバンドの
少なくとも、パンクなりの衣装で跳ね回りたい気分ではないらしい、それが分かればいい。それについては同様に、廊下側にいる八汐も
ぼくが入ると
八汐は八汐で事実を言うのを
央歌は補足を加えずにはいられなかったらしい、「分かってると思うけど、毎回、本気で泣いてるからね?」と、誤解を招く発言の一部
仕掛けの
何よりまず、ぼくは章帆の
やりきってやるってことだよ。今日、幼く
「章帆がオトナをやろうと、ぼくはまだコドモでね、残念ながら。どこそこが素晴らしい世界だからって、そいつを
表情の消えようからして、しかし何かが意識を貫く
「そりゃあ、分かるに決まってるだろ。やんちゃだろうが不純だろうが、
章帆の愛を受け取るに足るものであるべきだ。
「ぼくは、今夜この
何せ、章帆ひとり分だけの
「――と、
であれば、もう用意しているのだし、章帆は本来着るつもりだったドレスを着ることのない。章帆がコドモでいられないのなら、今夜、ぼくがその役を引き受ける。振り回して、巻き添えだ。ぼくなんぞ、本来着る予定だった服は、持ち込んでさえいない。
もはや拒みようのないと本能で
「ふたつ、言わせてください。」
章帆に表情のないのは、もう、正解の分からないのだろうなと、そう思われた。
「次は絶対、お前を仲間外れにしてやるからな。覚えとけ。」
どうやら、だいぶ大きな恨みを買ったらしく、敬語もなし。最後まで残るひとりは、八汐が大本命になったようだ。まあ、
ふたつめを言うのに、章帆に
「ここで着ちゃったらもう、
式を阻止したいがための企みではなかったので、消去法だな。すると必然、その後に何なりかを開催をすることも確定で、むしろ準備の手間が増える。そりゃあ、どうせなら弾かせたいだろう、一谷史真がやる気になってるんだからさ。無理がある、
章帆は見事に騙されてしまい、結果、ぼくは報復に怯えなくてはならなくなり、では誰が一番得をしたかとなると、八汐の独り勝ちなのかもしれなかった。今後の企みの標的から大きく
章帆の衣装、さらにはぼくの衣装もだが、八汐と姫名は
ではどこに口が出されたかといえば、ふたりから集中砲火を浴びてしまったのは央歌なのだった。花嫁がいる、新郎にあたるぼくがいる。では央歌は何を着るのかとなって、八汐が、間に立つなら聖職者だしそれなら男装させようと言い出したのが
おおよそ八汐が央歌に着せて眺めたいからこその発想なのだが、央歌の男装などと聞き捨てならぬと――ファン心理的に絶対に見たいし口を出したいという意味で、姫名も猛烈に乗っかってしまい、央歌はひとり
ともあれ、堂々と
もともとのモチーフとしては
どうせ、とうに隠せるものでない。ドラムセットどころの騒ぎでない、機械に乗せて運び入れる必要のある楽器だ、その機械さえ、仮に購入しようとすれば、まあ、その額で買えないギターはどうかしている。まったく、いちいちそんなだから、一谷史真に似合いだというのだ。ある意味、楽器のうち、ほとんどこの世で
あるものは分かる。この先どうか知れないと
大したことないさ。今日という日のいずこと比べても。事実は心に優しくないと、それだけ。央歌は今、マイクスタンドの正しい前にあり、嘘
「ごきげんよう、ミナサン。さあ、この
そして、スタンドをそのまま、マイクごと床に倒す。ひと言発したならば、もはや要らないために。雑音は入らない。全くの予定通り、もう音量はない。音は拾わない。
わざわざ頼まなくったって、お前の
ぼくもまた、
さあ、いいか。
愚かの極みを――
ぼくがぼくのピアノを弾くということは、変えないということは――
覚悟はできたか?
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