実在する高校をモデルにしているという本作は、特有の文化を持つ「体育祭」の説明からスタートします。一般的な体育祭の形として、多くの人々が想像する光景は、紅白のチームに分かれた生徒たちの対抗戦ではないかと思います。
ところが、本作の湘南高校では、紅白の二色ではなく、なんと九色。一学年に九つあるクラスに色を割り振り、縦割りの組み分け――例えば、一年一組、二年一組、三年一組で「紫」というチームを組むような形で、競技に取り組んでいくのです。
そんな九つのカラーを背負ったチームには、それぞれリーダーを務める三年生がいます。「総務長」と呼ばれる彼らは、皆の憧れであり、頼れる存在でしたが……彼らに集まっていた信頼を、根底から揺るがすような「スキャンダル」が、体育祭を控えた校内に広まろうとしていました。
スキャンダルが流布すれば、伝統ある体育祭の存続に関わってくるかもしれない。そこで、これから新たに広める「言葉」で、スキャンダルを相殺すべく、記事を書くために奔走する生徒が――本作の主人公と、ペアの先輩の二人です。
湘南高校の新聞部に所属する一年生・津嶋花生は、副部長を務める成瀬利秋ことリシュー先輩と共に、スキャンダルの真相を追っていきます。
噂の真贋を見定めた上で、どんな記事を書けばスキャンダルを打ち消せるかを考えながら、校内で多くの生徒たちと言葉を交わし、噂という謎のベールに包まれた答えに迫っていく彼らの胸には、常にとある「言葉」が刻まれています。
「あの言葉」とは何なのか、読者が知る頃にはきっと、彼らが胸に抱き続けた信念の熱が、きっと読み手の胸にも灯っているのではないでしょうか。それほどに、学年の垣根を超えて切磋琢磨し、体育祭を盛り上げていこうとする彼らの姿は、とても眩しく、キラキラしていて、胸を打つほどに熱いのです。
そんな情熱を込めた言葉こそが、来る体育祭に向けて青春を謳歌している生徒たちの日々を、スキャンダルという驚異から防衛しているのだと感じました。
皆さまもぜひ、花生とリシュー先輩と一緒に、スキャンダルの謎を追ってみてはいかがでしょうか。その瞬間だけの、唯一無二の青春が、きっとあなたを待っています。
青春というのは、爽やかなものという印象がある。もちろん爽やかといっても、すべて楽しいわけではなく、苦さからの爽やかさもある。
この作品は言うなれば、「The・青春」だろうか。
まず何よりも体育祭がすごい。こんなにもチーム数のある体育祭はなかなかないだろう。そして、この体育祭は熱い!
けれどそんな体育祭を目前にして、何やら醜聞――ゴシップという問題が発生した。
そんな問題をペンと己の足で解決しようというのである。
そんなゴシップについては、それぞれ見事な鮮やかさで解き明かされ、そして物語はそれらが繋がり黒幕の元へ。
これはきっと、忘れられない青春の1ページになるのでしょう。
ぜひ、ご一読ください。
神奈川県立湘南高校。進学校にして日本一『アツい』体育祭に燃える、パワフルで自由な学舎。
生徒誰もが熱狂するその1年に1度の祭典を前に、新聞部員である花生は祭の権力者である先輩から奇妙なミッションを依頼される。
『クラスのリーダーたちにまつわる“ゴシップ”の火消しをして、彼らと体育祭を守ってほしい』
まだ湘南高校の伝統に染まっていない花生はワケがわからないながら、先輩の「リシュー」とともに生徒たちの間にはびこるゴシップの真相を追っていく。リーダーなのに行方をくらませる、誰が誰のカレシを奪った、彼は彼女にZOKKONらしい――どれも他愛のない噂のように見えて、学校という閉じた王国で暮らす生徒たちには沽券に関わる大問題だ。
新聞部の腕章を光らせ、花生とリシューは学校狭しと飛び回る。普段は『ぐうたら』なリシュー先輩も、ゴシップの真相に辿り着くまでの行動力や推理力はピカイチ!花生もそんな彼にたまにドキッとさせられたりと、なんやかんやで青春を謳歌。
大ごとになる前に華麗に『火消し』をしていく二人。
しかしやがて、一連のゴシップの陰にひそむ巨大な『真実』に気づき……?
*
昔ながらの「足」で調査を進めていく主人公コンビがまず良きです!もちろんスマホやSNSなどの現代らしいギミックもあるのですが、証言を得られそうだと思った瞬間にはすぐにその人物のところへ飛んでいく姿は古き良き「名探偵と助手」みたいで、すごくニコニコしちゃいます。バディ捜査が好きな方は間違いなく好きなやつです。
物語は主人公の花生ちゃん視点で語られるので、華のJK視点で懐かしい学校の様子を体感することができる点もおすすめ。やたらと入り組んだ校舎、仲良し同士の談笑、季節の息吹がそのまま流れ込んでくる学校の生活。描写は繊細で鮮やか、でも文学的になりすぎず、あくまでひとりの女の子の視線で描かれているのがとても素敵でした。ああ、こんな感じでしたね学校というところは…(泣)
作者さんは普段ミステリ書きさんとあって、各ゴシップの真実もおおう!?と唸ってしまう工夫がたくさん。一気読みも楽しいですが、真実の前には手を止めて少し推理を楽しむのもまた一興です。私は全然当たりませんでしたが(笑)。そしてこの作品、学校内の小さな事件をするすると解決しつつ先輩とのラブが進展していく系ではなく、最後には骨太な『真実』も仕掛けられております。一見無関係に見えるゴシップが紡ぐ糸に気付いた時には、もう読む手が止まらなくなっているはず。うーん、さすが!
当たり前ですが、大事なものって人それぞれちがう。それがぎゅっと詰まったのが学校で、そんな王国でぶつかり合いが発生しないわけがない。どの生徒にも譲れない覚悟や信念があり、そして守りたい青春があります。『新聞部』――報道は、その青春を輝かすことも、貶めることもできる。真実に辿り着いたあと、その開示の仕方に真摯に向き合うリシュー先輩や、彼をそばで見つめている花生ちゃんの心意気がまた粋なのです。
青春、ミステリ、恋、アツさ――この文量でこのすべてを余すことなく味わえるのですから、間違いなく名作です。まさに高校生な読者さんたちにも、そしてセーシュンって聞くだけでなんか気恥ずかしい気分になっちゃう大人読者さんにもおすすめ。
読み終わった時、きっとあなたの胸にも――「あの言葉」が。
生徒の自主性を重んじる校風で、生徒が主体となって運営する、湘南高校の伝統の体育祭。
縦割りで組まれる9つのチーム、その代表である総務長たちに、ゴシップの影が?
新聞部の1年・花生は、2年のリシュー先輩に連れられ、ゴシップを揉み消す記事を書く任務に当たります。
如何にして波風たてずに真相へ近づき、平穏にコトを収めるか。
総務長らにまつわるゴシップは、ミステリ風のアプローチで一つ一つ鮮やかに解き明かされていきます。
普段はのらりくらりとして見えるリシュー先輩の手腕が光る。
そんな彼にいつもツッコミを入れる花生は、どこまで自分の気持ちに気付いているのか。
青春の甘酸っぱさもひと匙加わって、各章さわやかに、時に苦味を伴いながら展開します。
しかし記事を紡ぐうち、一連の案件は陰謀めいた意図で繋がり始め……
行き着いた事実により、当初予想だにしなかった大きな事態へと発展していくのです。
時代はどんどん移り変わります。人の在り方も変わるでしょう。時には道を誤ってしまう人もいるかもしれません。
伝統か、革新か。
そうした時代のシーンを切り取ることこそ、報道の大事な役目です。
彼らの握るペンは、そんな力を秘めているはず。
読み終わった後、めちゃくちゃ青春したくなりました。
高校生の時って人生の中で本当に一瞬ですが、かけがえのないものですよね。たいへん沁み入りました。
非常に読み応えある作品です。もっと多くの方に読んでいただきたいです!