第16話 さよなら、金さん。

 へっぽこ介護士月猫です!


 私を褒めまくってくれた金さん。いや、ときに「しょっぱい女だな!」と言われたこともありました。


 履きにくい靴を履いていた金さんは、他の利用者さんが履いているマジックテープの付いた靴が欲しくなって、私に「お金やるから買って来てけろ」と頼んだのです。

 

 それで、「私が買ってくることはできないので、家族の方に頼んでもらっていいですか」と返事をしたところ、「あんだ、しょっぱい女だな!」と言われました。


 なんとなくニュアンスは伝わります。悪い言葉だよなぁって……

 でもあえて「しょっぱい女? それは、方言ですか? どういう意味ですか?」と聞いてみたのです。

「意味わがらねぇば、いいんだ」そう言って、にやりとする金さん。


 そんな金さんですが、いつもは褒め殺しの金さんです。


「年いって、こんなになっで情けねぇな」と愚痴をこぼす金さんに「私だって、年いけばそうなるがら」と答えると「あんだだば、人のこと傷つけないようにしゃべるな。親御さんの育てがたが良かったんだべな」と私の親まで褒めてくれます。


 心の中で、うちの親の育て方かぁ。あの梅ちゃんが、こうやって褒められるとは……なんか、笑える。私の人生は、きっと、これで良かったんだろうな。


 と、私の心の奥にあるトゲトゲした部分を、そっと抜いてくれました。

 こんな感じで、金さんに何度も癒された月猫です。

 

 金さんと一緒に話せる最後の日。

「あんだ、おらの家さ遊びに来いな。庭のじゃがいもけでやるがら!」と何度も声をかけてくれました。

 私は「うん、わがった」と笑顔で答えるだけ。


 金さん、ごめんね。私は、金さんの家も知らないし、金さんにそう言われてもお家へ行くことはできない。

 多分、もう会えないと思う。


 短い期間だったけれど、大変なこともあったけれど、金さんとの出会いは楽しかった。思い出をありがとう。言葉をありがとう。そして、お元気で!



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