第7話
「ただいま。癒海さん、戻ったよ」
「癒海~。今日の晩御飯は何なのじゃ?」
学校の下見を終えた僕は、天と共に癒海さんが待っている家に何事もなく帰ってきた。
リビングに入るとちょうど癒海さんは晩御飯の支度をしているところだったようで、3人分のブリの照り焼きが皿の上に盛られていた。
「おかえりなさい二人とも。そろそろご飯ができるので、天ちゃんは食器を運んでもらってもいいですか?」
「任せろ!」
「ただいま癒海さん。ご飯盛ればいいかな?」
「ええ、お願いします」
炊飯器にしゃもじを突っ込み、ご飯をよそう。白い湯気が顔を撫で、食欲を誘う香りが鼻を抜ける。
「今日の晩ご飯はブリの照り焼です」
「おー、美味しいやつだ」
「ご主人!早く白米を持ってくるのじゃ!」
「はいはい」
天に急かされてご飯を持っていき、3人で食卓を囲む。
「はい、じゃあ手を合わせて。いただきます」
「「いただきまーす」」
癒海さんの音頭に合わせて食事を始める。
癒海さんが作ってくれる料理はいつも絶品だ。このブリもちょうどいい具合に柔らかく、甘じょっぱいタレが絡むといくらでも箸が進む。
「うまいのう、うまいのう、もぐもぐ」
「ふふっ、良かったです」
天が毎度のことながら感嘆の声を漏らしつつお椀の中の白米をかきこむ。食べるか話すかどちらにしてほしいといつも言っているのだけど…
「どうでしたか朝火くん。初めての学校は」
「めちゃくちゃ規模が大きかった。大規模な自衛隊基地と同等以上の敷地の広さだったよ」
「それはすごいですね……でも、そんなに広いと逆に宝の持ち腐れなんじゃ?」
「僕もそう思ったんだけど、色々施設が置かれてるみたいだよ」
敷地内の4分の1はプロ選手の試合会場ともなる隼風スタジアム、もう4分の1が生徒の居住区、残りが校舎や訓練場といった感じだった。僕が居座っていた図書館も蔵書が1万冊を超える大きな図書館だったらしいが、それすらも校舎の一部だというのだから恐れ入る。
「写真も送ったけど、寮の部屋が本当に広くて。あれって普通の学生なら持て余すくらいの広さだよ」
「相部屋とかにしてもまだ余裕がありますよね」
「急に入学とか言われたけど、結構楽しみかも」
未だ経験したことのない学生生活というものに思いを馳せながら、ふと手を止める。
「そういえば癒海さんはどうするの?」
「私はお留守番ですかね〜。今回の長期休暇が出されたのは朝火くんですから」
「母さんに掛け合ってみる?癒海さんも僕に合わせて動いてくれてるから働き詰めだし」
「う〜ん、お誘いは嬉しいですけど、そうするとこの家に誰もいなくなっちゃいますね。陽灯さんがたまに帰ってきますけど、その時の夕食も作らないといけないじゃないですか」
「陽灯は家事を癒海やご主人に頼りすぎてるところがあるからのう。いなくなったらどうなることやら」
「あー…そっか」
確かに母さんは家事がめちゃくちゃできない。自炊もしないから放って置くと部屋がカップラーメンで溢れちゃう。
「週末はこちらに帰ってこられるんですか?」
「多分大丈夫だと思うよ」
「じゃあその時にいっぱいお話を聞かせてください。あ、確か学校には運動会とかがありましたね。そのときにはお弁当持って見に行きますからね」
「そういえば癒海さんは学校行ってたっけ」
「保育園は行ってましたよ〜」
「そうか、じゃあそんな癒海大先生に教えてほしいことが」
「何でも聞いて下さい〜」
僕は大先生に今一番必要なことについて質問をぶつける。
「友達の作り方を教えてほしいです」
「…なるほど、朝火くんらしい質問ですね」
むむむ、と可愛く唸る癒海さん。
「私が子供だった頃は自然と友達が出来てましたからね〜。作ろうと思って作るものじゃない気がします」
「へえ」
「ひとまず相手のことを知ることが大事だと思いますよ」
「積極的に話しかけてみるよ」
「はい、あまり気負わないでくださいね。そういえば引っ越す時期とかは決まっているんですか?」
「確か来週の週末とかじゃなかったかな。特に持っていくものもないし、あぁ、ベッドとか移動させないといけないのか。その手配とかもやってくれてるのかな」
「色々と確認する必要がありますね」
「もしかしてまあまあ忙しい?」
「ですね〜」
「そうかぁ、天、引っ越しの準備のときは手伝ってね」
「任せるのじゃ!」
そうして賑やかな食卓の時間は過ぎていった。
===========================================
面白いと思っていただけだらいいねと☆を!続きを読みたいと思ったらお気に入り登録をよろしくお願いします!
カクヨムコン10で更新予定の小説たち
VTuberを支えるためにマネージャーとして事務所に入社したら公式スタッフとして会社の顔になってしまったんだが?
https://kakuyomu.jp/works/16817330655148085373
元学生探索者日本一バディの片割れ、プロ入りした元相棒に誘われもう一度、今度は世界一を目指す
https://kakuyomu.jp/works/16817330669203690237
最強の霊刀使いと最強の剣士たち 〜加減を知らない最強のスパルタ教育〜
https://kakuyomu.jp/works/16818023213496397831
準備中:現代ファンタジーのダンジョン配信物
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます