第42話 阿久津怜という漢
「あ、わりい!怖がらせちまったか?そりゃあいきなり馬鹿ボコボコにして、
頭をポリポリと書いて申し訳なさそうにする阿久津先輩。
俺が突然の事で呆気に取られてしまっていると、先輩を変に勘違いさせてしまったようだ。
元々俺は噂などに興味はない。俺のダチ達で噂だけで人をどうこう判断するような奴はいない事もあり、偏見などは全くなかった。それどころか、先輩が来てくれなかったら今頃ボロ雑巾にされていたのは俺の方だろう。寧ろ感謝しかない。
「いやいや!違います。突然の事でちょっとビックリしただけで…。俺、影山優斗って言います!助けてくれて本当にありがとうございました!」
「おう!!…てかお前が影山か!お前の噂も仲間から聞いた事あるぜ?色々大変だったみてえだな。やるな、お前。あっはっは!」
バンバンと背中を馴れ馴れしく叩かれるが、不思議と全く嫌な気がしなかった。恩人だからか、この人の豪快な性格のせいだろうか。おそらく両方だろうな。会ったばかりなのに、すぐに心を開いてしまいそうな人懐っこさがある。
「まっ、これも何かの縁だ。仲良くやろうや。俺、全然学校行ってねーけどな!あっはっは――って、隣にいやがるのはよく見りゃ生徒会長サマじゃねえかよ!」
俺の後ろに隠れている会長に気付いた阿久津先輩は、顔を途端に
「今頃気づいたのね。学校に来てないと思ったらこんな所で一体何をしていたのかしら?留年したくなかったら学校にちゃんと来なさい!」
「せっかく助けてやったのに、いきなりお説教かよ!?ったくこれだからお堅い生徒会長サマは――」
「……ありがとう」
「へ?」
「…だから、ありがとう。助かったわ。二人がいなかったら私、今頃どうなってたか…」
会長は目に涙を浮かべながら、俺の服の裾を掴んでしっかりと俺たちにお礼を言った。
「ちっ、泣くんじゃねえよ。調子が狂うぜ…ったくよ…」
その様子を見た阿久津先輩は、調子が悪そうにまたポリポリと頭を掻いてしまう。が、すぐに未だに俺にピッタリとくっ付いて離れようとしない会長を見て面白そうに呟いた。
「それにしても、あの男嫌いな生徒会長サマがねえ」
「……ッ」
それを聞いた会長は、顔を真っ赤にしながらやっと服の裾をパッと離した。一瞬俺と目が合ったものの、すぐに視線を外されてしまう。
「ははは、こりゃ面白え事になってやがるぜ。おい色男!こっから先はお前の役目だ!しっかり今日は家まで送ってやれよ?」
「??はあ、分かりました。あんな怖い思いをした後ですし、任せて下さい」
流石に今日は一人で帰るのは心細いだろうなと俺も思っていた所だ。最初避けられていたし、会長が嫌じゃなければいいが…。
ふと会長の様子を伺ってみるものの、一向に視線を合わせてくれないままだ。
任せろと意気込んで見たものの、不安そうな俺に対して何故か阿久津先輩はまた楽しそうに言う。
「おいおい、何だよその反応…。おい、会長サマ。コイツは相当鈍感野郎みたいだぜ?こう言う奴は、放っておくと無自覚にフラグ立てまくるからシャキッとしろよ?」
「か、からかわないでよ!」
蚊帳の外の俺を尻目に、何故か会長は耳まで真っ赤にしていた。
「ああ、お前らが配ろうとしていたビラは俺がここら辺の信用出来る奴に配っておくから、今日はもう休め。後報復されるような事は俺が絶対させねえから、それも安心してくれ。まあ、せめてもの詫びだな」
これからまた仕事なんて嫌だなぁと思っていた所だったので非常に有難い。俺達はお言葉に甘えて、残りのビラを阿久津先輩に任せた。
正直あんな事をしておいて報復は大丈夫かと心配だったが、その辺も心配はなさそうで安心した。ていうか、俺がさっきのヤンキーならそんな度胸は絶対無いな。次やったらマジで殺されると思う。否応無しに。
「それはそうと、お前俺のチームに入らないか?」
「すいません。流石にそれは遠慮します」
「そりゃあ残念。気が変わったらいつでも言えよ?お前みたいな漢気がある奴はいつでも大歓迎だからよ?」
「こらっ!影山くんを変な道に引き込まないでちょうだい!」
「へいへい…。今度は学校で会おうや。気をつけて帰れよー。まあ頑張れ、会長サマ」
「からかわないでって言ってるでしょう!?もうっ!」
阿久津先輩と別れた後、会長と二人っきりで帰路に着く事に。
お互いに会話は無く、気まずい状態がまだ続いている。会長はというと、俺の後ろから離れないように着いてきていた。時々振り返ってみるものの、その度に会長は顔を真っ赤にして口をモゴモゴとしてしまうんだ。
き、気まずいぞ。非常に。
でも一つ安心したのは、会長が3mは俺と距離を取っていた事が嘘のようにすぐ後ろにいてくれる事かな。さっきの出来事で、少しは警戒を解いてくれたのかもしれない。
さっき襲われそうになったばかりだし、何て言葉をかけたらいいか。こういう時、イケメンの恭二なら気の利いた事を話せるのだろうが…。まったく、こういう場面での自分の不甲斐なさを嘆くばかりである。
でも、ずっとこのままじゃ流石になあ。会長の家の場所も聞かないといけないし。
よし!とりあえず何でもいいから何か話しかけるとするか。
意を決して振り返ってみると、先に口火を切ったのは会長の方だった。
◇◇◇
少しだけ、宣伝をさせて下さい。
3月初め頃から「異世界で魔王倒したお礼に、相思相愛だと思っていた我が家の猫を人間にしてもらったけど予想と違いすぎたんだが」という新作ラブコメを連載開始しました!
シリアス要素皆無で、終始ゆるーいノリの何も考えなくていいおバカなラブコメとなってます。まだそちらは始まったばかりで文字数も少ないので、もしよければ読んでみて貰えるととても嬉しいです。
いつも応援ありがとうございます!
月美夜空
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます