私達の世代だと、どうしてもSFというと、『スターウォーズ』や『ガンダム』、『ドラえもん』などのアニメや映画の影響が出てしまいがちなのですが、それとは全く違う形のSFを見せてくれる、珠玉の短編です。
この作品の真髄は、主人公の心理描写であり、その書き方は私小説に近いです。それをSFというジャンルを使って描かれており、90年代の作品にも拘わらず、読後感が新しいです。
令和になった今でも、私小説はSF・ファンタジー要素を嫌う傾向があるので、こういう作品は案外SF側にも私小説側にもないと思います。
また、カクヨムという若手の書き手が多い環境にあって、このような大御所の隠れた名作があることは、とても価値があると思います。
是非、是非、一読を!
『ささやきの彼方』は、戦争の悲劇と親子の絆を繊細に描いた感動的な物語です。物語は昭和二十年、熊本市に住む学生良太郎と長崎にいる母親との電話から始まり、戦争の影響が徐々に彼の人生に及んでいく様子が描かれています。
長崎の実家の土地を手に入れた元大学教授の良太郎は、ある雷雨の夜に庭で不思議な火の玉を目撃し、亡き母の声を聞くという神秘的な体験をします。この体験が彼の心に深い影響を与え、過去の記憶や母との絆が再び蘇ります。
さらに、良太郎は牧村の協力を得て、科学的手法で母の声を再現する実験を行います。この過程で彼が感じる複雑な思いと、最終的に母の声を胸に刻む姿が、読者の心に深く響きます。
『ささやきの彼方』は、戦争の悲劇と家族の絆をテーマにした心温まる物語です。母親の声に導かれる良太郎の旅路を、ぜひご一読ください。
簡単に説明すると:「ファウストのSF版」。
地上から失われた想いを、科学という名の悪魔と契約して取り戻す。しかし死者を蘇らせることなど可能なのか? 取り返しがつかなくなる前に出来るのは――—。
ここからは感想です。
たった八千文字なのに、一本の短編映画を視聴したような内容でした。科学とオカルトを合体させた設定も面白く、良性の人間性を取り戻すエンディングは、まさにSFジャンルに相応しかったです。
表現と演出の仕方も上手いです。第一話で描かれた核爆発は最初、なんだろう?と思いましたが、後の説明によってキノコ曇だと明かされたときは、一気に現代へ戻されたかのようでした。
90年代の短編小説ですが、現代でも難無く通用する、色あせない作品です。