アングル:アジアの空に豪華サービス続々、富裕層獲得へ競争激化
7月4日、格安航空会社(LCC)が中間所得層をつかみ勢力を伸ばすアジア市場だが、一方でフルサービスを提供する航空会社は、富裕層向けビジネスの回復を賭けて豪華なサービスに多額の投資を行っている。写真はマレーシアのLCC、エアアジアの旅客機。インドネシアで1月撮影(2013年 ロイター/Enny Nuraheni)
[シンガポール 4日 ロイター] - リムジンによる送迎や機内で料理をふるまうシェフ──。格安航空会社(LCC)が中間所得層をつかみ勢力を伸ばすアジア市場だが、一方でフルサービスを提供する航空会社は、富裕層向けビジネスの回復を賭けて豪華なサービスに多額の投資を行っている。
企業がコストカットを進める中、こうした航空会社の事業やファーストクラスの利用者数はここ数年で大きく落ち込んだ。しかし、シンガポール航空や香港のキャセイ・パシフィック航空<0293.HK>、オーストラリアのカンタス航空などは今なお、利益率の高いプレミアムクラスの売り上げが旅客収入の35─45%を占めている。
同クラスの乗客1人当たりの利益はエコノミークラスの4─5倍で、航空会社が豪華なキャビンや食事などのサービスに投資を惜しまない理由がよく分かる。業界データによると、アジア太平洋地域の航空会社は世界の航空業界で最も高い利益を上げているという。
シンガポール航空のプロダクト・サービス責任者タン・ピー・テック氏はロイターのインタビューに、「製品を改善しなければ、価格面でより大きな下落圧力が常にかかる」と指摘。「投資や何か新しいものが目に見えれば、それを試そうとする人はいつもいる」とし、(エアバス)A380型機の就航がその例だと話す。
アジアのLCCでは、マレーシアのエアアジアやインドネシアのライオン・エアなどが旅客急増を受け、過去最大規模の旅客機を発注してメディアをにぎわしている。その一方で、アジアの富裕層旅行客をめぐる獲得競争もヒートアップしている。
シンガポール航空は、プライベート空間や荷物スペースを拡大した新しいファーストクラスの座席を開発するため、独自動車メーカーのBMWグループのデザイン部門「DesignworksUSA」と契約した。
このファーストクラスのキャビンは、別会社がデザインした快適性を高めたビジネスクラスの座席とともに、ボーイングの777─300ER型機に導入され、年内にも就航する予定。同航空は新座席を9日にメディアに発表する。
<顧客つなぎ止めに向けた投資>
最高水準の顧客サービスや民族衣装サロンケバヤの制服を着た女性客室乗務員「シンガポールガール」で知られるシンガポール航空は、金に糸目をつけない湾岸諸国の航空会社の圧力にさらされている。
エミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空は、新型機や新サービスの導入、路線拡大で顧客をつかむため、大規模な投資を行っている。
エミレーツ航空は、A380型機のファーストクラスにシャワー設備を取り入れたほか、ビジネスクラスでも利用できるオープンバー付きの機上ラウンジを導入した。さらに、ビジネスクラス以上の利用者には無料の送迎サービスを世界55都市以上で提供している。
このサービスの注目度は高く、かつてはシンガポール航空やキャセイ航空のビジネスクラスを利用していたという人も、エミレーツ航空に乗り換えるケースが出ている。
さらに、エミレーツ航空は拠点であるドバイからの路線拡大にも力を入れている。「スケジュールが常に鍵になる」と言うのは、同社でシンガポールとブルネイ地域を担当するニック・リース氏。「わが社の路線が特に強い部分は、ドバイから欧州35カ所に行けるところだ」と語る。
乗り継ぎの良さはフルサービスの航空会社にとって非常に重要だ。シンガポールは急成長する東南アジアへの玄関口に位置しており、このことは同国のチャンギ空港がなお重要なハブであることを意味する。
リース氏は「競争のために、ほとんどの航空会社が最高の機材をチャンギに投入している」と説明する。
エミレーツ航空と5年にわたり提携するカンタス航空は今年4月、そのシンガポールで新たなラウンジを開設。収容人数は460人で、20人が使用できるシャワー設備や数多くの大型テレビを設置した。
アジアの成長を受けて同地域の超富裕層が増え、シンガポール、中国、香港などの高額所得者は高品質の空の旅に金を使うことをいとわなくなった。
キャップジェミニとRBCウェルス・マネジメントの調査によると、アジア太平洋地域の富裕層人口は2012年に急増し、9.4%増の370万人に達した。これは北米に次ぐ数だ。
シンガポール航空のタン氏は「確かに、プレミアムサービス部門の成長はLCCに負けるが、なお拡大しており、それは今後も続くと見られる」と分析する。
<キャビアとロブスター>
アジアの他の航空会社もプレミアム市場を注視している。マレーシア航空やタイ航空などもA380型機を導入し、富裕層利用者の獲得に力を注いでいる。
マレーシア航空は昨年、一部路線でファーストクラスの機内食にキャビアとロブスターを提供し始めたほか、クアラルンプール─香港・パリの2路線にファーストクラスを導入した。
ガルーダ・インドネシア航空は今年、過去最大となる24機の新機材を就航させる予定だ。エミルシャ・サタル最高経営責任者(CEO)は、「エグゼクティブクラスを選んだり、アップグレードしたりする乗客が増える傾向にあるのは間違いない」と自信を深める。
同社は今年、ジャカルタ─ロンドン間の路線を初めて開設し、ファーストクラス8席を備えた777─300ER型機を投入する。同クラスはフルフラットベッドにもなる大型シートが目玉で、世界6局のテレビ放送をリアルタイムで見られたり、無線LANを利用できたりもする。
搭乗前のコンシェルジュサービスには、リムジンによる送迎やバトラーサービスも含まれる予定。さらに、シェフが機上で調理する料理が提供されるほか、23.5インチのタッチスクリーン型液晶テレビで映画などが鑑賞できる。
サタルCEOは「旅行者がますます裕福になり、普通では味わえない旅行体験への欲望がこれまで以上に強くなっている」と話した。
(原文:Anshuman Daga記者、翻訳:橋本俊樹、編集:伊藤典子)
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