スターバックス、マクドナルド、セブンイレブン。これらの世界企業はすべてアメリカ生まれだ。スタバやマクドナルドは、日米で多少メニューが異なるが、店舗の雰囲気はほぼ同じ。一方セブンイレブンは、店内の雰囲気も、販売されているフード類もやや異なる。
今回は、アメリカの本家セブンイレブン(7-Eleven)が、日本の店舗とどれほど違うかレポートしたい。
店舗によってはスロットマシーンも
米国内にセブンイレブンは8835店舗ある。約3分の2はフランチャイズ経営、約3分の1はコーポレートによる直接経営のようだ。
筆者の住むニューヨーク州には563店舗。同州でスタバはわりと乱立しているが、セブンイレブンはスタバと比べて数が多い印象はない。歩いていてたまに見かける程度だ。実際、筆者の生活圏に店舗がないのでこれまでほとんど利用したことがない。今回はほぼ初体験となった。
そもそも、コンビニエンスストアは1920年代にアメリカで生まれたものだ。その後、70年代に日本にも登場して以来、日本国内で急激に発展していき、今や日本人には欠かせないものになった。各店の競争もあって、売られている物やサービスはアメリカの比ではないくらい上質だ。
一方、本家アメリカのコンビニはやや異なる。例えばニューヨークでは、セブンイレブン以外にもドラッグストアや街角のボデガ(食料雑貨店)、ガソリンスタンド併設店が、日常生活で利用されることが多い。品物やサービスは、日本に比べてそれほど成熟しておらず、日本を訪れたアメリカ人は、日本のコンビニ文化にド肝を抜かれる(自動販売機にも!)。日本のコンビニは世界でも有数の高い品質を誇っているのだ。
そんな米国のセブンだが、店舗によって販売されているものは微妙に違う。例えばカジノの街ラスベガスには、スロットマシーンが置いてある店舗もある。一方ニューヨークでは、宝くじ機や合鍵複製機は見かけるが、スロットマシーンは見かけない。
日本では当たり前のようにある雑誌コーナー、菓子パンコーナー、おにぎり、おでん類もアメリカの店舗にはない。その代わりに、アメリカのセブンイレブンには欠かせないサービスがいくつかある。
レジ前にアメリカ人の国民食「ホットドッグ」
1つは、セルフで作るカスタムメイドのホットドッグ「BIG BITE」だ。
レジ横にある温熱の鉄板上を、数種類のソーセージが楽しげにコロコロ回っている。パンがどこにあるのかと探していると、店内にいた用心棒(常連客?)が「ここだよ」と教えてくれた。パンは鉄板の下にある引き出し(保温器)に入れられていた。
自分で取り出しソーセージを挟む。トッピングは種類豊富だ。チーズ、チリ、みじん切り玉ねぎ、レリッシュ、ケチャップなど何でも好きなだけ「のせ放題」なのが嬉しい。
物価高のニューヨークにして、1.49ドル(約150円)という驚異的なコスパが大の魅力で、20年前にタイムスリップしたかのような感覚になった。サイズはアメリカの通常のホットドッグよりもひと回り大きく、味もイケる。日本人の舌にもきっと合うはずだ。
期待通りのカラフルなドリンク
アメリカのセブンイレブンで欠かせないもう1つのアイテムは、セルフサービスのドリンク類だ。
ソーダファウンテンと呼ばれるものでこれについては後述するが、アメリカでコンビニエンスストアが誕生する以前の時代背景が、今もこのドリンク販売機に反映されている。
ここではアイスコーヒーを試してみた。数種類のコーヒー用ミルクやマシュマロ類など、トッピング類が充実していて入れ放題だ。こちらも自分で味や量をカスタマイズできる。
1ドル(約100円)からという廉価も魅力的だ。日本の感覚では普通かもしれないが、5ドル(約500円)前後のアイスコーヒーが普通に存在する物価高の当地において、これは驚くほどの安さ。
店内には菓子パンコーナーはないが、インスタ映えしそうなドーナツやおしゃれなマカロンが各種そろっている。ドーナツを食べてみたが、ふんわりした歯ざわりで合格点。ただしアメリカの驚異的な甘さなので、覚悟が必要。このような「ギルティプレジャーフード」はダイエット中にはキケンな食べ物だ。
ほかにスナック類、スキンケア商品、日用品や薬、ギフトカード、今の時期欠かせないマスク類などが置かれてある。ボトルドリンクも、アメリカらしく大サイズのソーダ類に加え、超巨大なボトル水があった。
もう1つ。アメリカのセブンイレブンには基本的に日本のような自動ドアはない。特にニューヨークはビルが古いので、重いドアを手前に引いて開けるタイプが主流だ。
これは店舗によって異なるが、たまたま筆者が寄った店先にはドアマンが立ち、客の出入りに合わせてドアを開閉していた。セブンイレブンが雇用しているのではなく、自発的に働いている人だと思われる(NYではたまに目にする自発サービス)。
アメリカでは新型コロナウイルスで失業率が上がっている。助け合いの気持ちで、筆者もチップとして1ドル札(100円程度)を上げたらとても喜んでもらえ、こちらも嬉しい気持ちになった。
セブン誕生のきっかけとは
せっかくの機会なので、本家セブンイレブンの背景についても触れておこう。
アメリカのセブンイレブン(本社テキサス)は、前身であるサウスランド・アイス(Southland Ice)社として1927年に創業された。当時はまだ家庭用冷蔵庫がない時代で、食品保存用の氷塊の販売をすることで、次第にトートム・ストアズ(Tote'm Stores)という店名で知られるようになった。
禁酒法、世界恐慌、第二次世界大戦などを経て1946年、当時としては前例のない長時間営業(午前7時〜午後11時)の店として新たに舵を切り直し、営業時間から取って「セブンイレブン」に名称変更した。経営転換の理由の1つは、氷屋のビジネスが衰退したことによる。50年代には家庭用冷蔵庫が80%近くの家庭に浸透したため、ビジネスのドラスティックな方向転換が必要だった。
その後1963年より、試験的にテキサスの店舗で24時間営業を始め、翌年フランチャイズ化を開始した。
日本では1973年、前身となる「ヨークセブン」が設立され、アメリカのセブンイレブンとライセンス契約を締結。翌年、日本第1号店を東京都江東区に出店した(豊洲店)。
米セブンの象徴「ソーダファウンテン」
アメリカのセブンイレブンは20世紀から、時代を先ゆくイノベーションを大衆にもたらし、アメリカの小売業、飲食業の最先端を常にリードしてきた。
米ウェブサイトには、セブンイレブンの説明として「世界初のコンビニ」「コーヒーやジュース類のテイクアウトを24時間可能にした最初の店」「最初にATMを設置したコンビニ」とある。今でこそコーヒーのテイクアウトは当たり前にできることだが、コンビニやファストフード店が誕生する以前は、当然それらのサービスは存在しなかった。
では何が人々に利用されていたかというと、20世紀半ば過ぎまで、アメリカの薬屋や日用雑貨店で親しまれていたのは「ソーダファウンテン」という炭酸類が飲める軽食用カウンターだった。このソーダファウンテンの名残から、米セブンイレブンには今でもセルフサービスのドリンクマシーン(これもソーダファウンテンと呼ばれる)が必ず設置され、利用客も多い。
日本のファミリーレストランで浸透したドリンクバーは、歴史を辿ればアメリカのソーダファウンテンが原型なのである。
またアメリカのセブンは、さまざまな大ヒット商品を次々にリリースし続けてきた。シャリシャリとした歯ざわりのフローズンドリンク「SLURPEE」、バケツ大のソーダとも揶揄される大迫力で肥満化の一助にもなった「BIG GULP」、そしてジャイアントサイズのホットドッグ「BIG BITE」などだ。
実は「日系企業」なのを米国人は知らない
このようにアメリカで生まれ世界企業に大成長したセブンイレブン。現在は17ヵ国で7万1100店舗が、フランチャイズ契約およびライセンス契約のもと運営されている。(2020年7月現在)
その後、1991年に日本のイトーヨーカドーが70%の株式を所有するようになり、2005年よりセブン&アイ・ホールディングスの傘下であるセブンイレブン・ジャパン(SEVEN-ELEVEN JAPAN CO., LTD.)が運営するように。
つまりアメリカの本家セブンイレブン(7-Eleven Inc.)はセブン&アイ・ホールディングスの子会社にあたるのだ。米系企業ではなく日系企業であるのは、実はアメリカ人でさえほとんどの人は知らない事実だ。
アメリカも日本も近代化にあわせて、いつでもどこでもすぐに食料雑貨に手が届くようにという“利便性”(Convenience)への追求から生まれたコンビニ文化。しかし、その姿は各国の生活様式にあわせて徐々に変化していった。
日本人は外国生まれの技術や文化を、より良いものに改良していくことに長けた国民だ。それが功を奏してか、アメリカ生まれの「セブン」は、日本では今や生活になくてはならないものとして、日本国民の心を掴んで離さない拠り所になっている。今回の本家レポートを通して、改めてそう実感した。