子ども手当2万6千円、「議論当時びっくり」 首相答弁(朝日新聞)
菅直人首相は24日の衆院本会議で、民主党が2009年衆院選マニフェスト(政権公約)で子ども手当の支給額を月額2万6千円としたことについて、「議論がなされている小沢(一郎)代表の当時、ちょっとびっくりしたことを覚えている」と答弁した。党代表の首相が公約の実現性に当初から疑問を持っていたことを自ら示した発言だ。
民主党のマニフェストでは、小沢代表時代の07年参院選以降、子ども手当は月1万6千円から2万6千円に増額された。この日の本会議での首相の発言は、社民党の阿部知子政審会長が「現実の財政状況で満額支給は当面不可能」などと問いただしたことに答えたもので、議場は一時騒然となった。
野党は反発し、自民党の谷垣禎一総裁は「小沢さんが提案したものだから責任を負わないぞ、と言っているように聞こえた。無責任極まる発言だ」と指摘。公明党の石井啓一政調会長も「民主党マニフェストがいかにいい加減なものだったかが改めてはっきりした」と批判した。
(中略)
一方、首相周辺は戸惑う。岡田克也幹事長は「最終的に我々はマニフェストを選んでおり、びっくりしたけど合意したということだ」。政府高官は「首相は正直なのだが、本当のことを言ってはいけない時もある」と漏らした。
そりゃまぁ、私だって民主党の公約の実現性には政権交代前から疑問を呈してきたわけですけれど(財源もさることながら民主党の「本気」に疑わしい部分が感じられましたから)、当時から民主党の幹部であった人間にそれを言われたくはないものです。経済系の言説がそうであるように、とかくお金の動くところほど根拠などなくとも力強く断言してしまえばそれで済まされるところがありますが、首相にしてこの体たらくなのですから日本が凋落を続けるのも当然の帰結でしょう。とりあえず明らかになったのは、菅直人が実現性に自らも疑問を感じている公約を掲げて、有権者に支持を訴えてきたということです。もっとも有権者側に民主党の公約の実現性を判断する材料が与えられていなかったかと言えば決してそんなことはなかったわけで、有権者は「騙された」のではなく、ただただ考えることを止めて「信じた」のだと見るべきだと思います。
民主党の岡田克也幹事長が25日、横浜市内で開かれた党神奈川県連のパーティーで出席者から激しいやじを飛ばされ、会場内が騒然となる場面があった。菅直人首相の政権運営や小沢一郎元代表の処分をめぐり党内対立が先鋭化する現状に、統一地方選を控えて危機感を強める地方組織が不満を爆発させた形だ。
岡田氏があいさつで、衆院選マニフェスト(政権公約)の見直しに理解を求めたのに対し、「マニフェストを守れ」「挙党態勢ちゃんとやれ」などと怒声が上がった。これに対し、岡田氏も「誰が見てもできないことをいつまでもできるというのは、まさしく国民に対する不正直だ」と、開き直って応酬した。
さて、冒頭のニュースで岡田は「最終的に我々はマニフェストを選んでおり、びっくりしたけど合意したということだ」と述べています。しかし、岡田自身が別の会場で見せたマニフェストへの姿勢はどうでしょうか? 曰く「誰が見てもできないことをいつまでもできるというのは、まさしく国民に対する不正直だ」とのこと、産経新聞のように民主党を目の敵にしている新聞ではなく、簡潔すぎて退屈な報道が特徴の時事通信からさえ「開き直って応酬した」と書かれてしまう有様です。岡田もまた幹部として「合意した」はずのマニフェストを反故にすることを、屁とも思っていないことがわかります。
ただ世論調査が示す結果を見る限り、民主党の掲げた公約は決して有権者の支持を集めたものではありませんでした。幅広く支持されたのは一部の公務員叩き的なものだけで、子ども手当のような類は賛否両論がいいところだったはず、むしろ公約実現のための手段、財源捻出のための手段として掲げられた「ムダ削減」の方にこそ有権者の期待は寄せられていたわけです。だから菅内閣のマニフェスト撤回の動きは必ずしも民意に反するものとは言い切れないのですが、とはいえ自らが有権者に約束してきたものを軽々しく撤回するような政治家が非難されるべきなのは当然でしょう。ましてや、その約束が実は自らも実現の可能性を疑わしく思っていたものとあらばなおさらです。選挙と求人広告には嘘が許されるのが慣例ですけれど、実現不可能とわかっているものを「できる」と言って契約を迫るとしたら、それは詐欺以外の何者でもありません。
岡田は自党のマニフェストを「誰が見てもできないこと」と語っています(外国人地方参政権とか民法改正とか、財源とは無関係な公約はいずこへ?)。それは政権交代前から同じであったはずなのに、今になって「誰が見てもできない」などと言を翻すのはどうでしょうか。選挙で国民に嘘を吐いたことの責任を取って政界から永遠に身を退こうとする段階での発言なら理解できますが、今後とも閣内に居座ろうとしている人間がこれを口にするのですから呆れるほかありません。岡田には「誰が見てもできないこと」を有権者に約束した、その詐欺行為の責任が問われてしかるべきです。
しかるに最悪なのは、菅内閣を追い落としたところで、それに取って代わるのは「さらにタチが悪い」連中であろうということでもあります。往々にして現状の停滞感に乗じた台頭してくる連中は、その前任者以上に有害な破壊者ばかり、政権は「変えれば変えるほど悪くなる」のが実情です。しかも昨今では台頭著しいポピュリストに靡いているのが無党派層とは限らない、名古屋市長選でもわかるように既存政党支持層、とりわけ民主党支持層がポピュリストに靡く傾向も強まっています。民主党内の現執行部に反発している勢力もまた、「維新」と称して河村や橋下の類と連携を模索する動きが盛んです。あの菅よりもタチが悪い連中が勢力を伸ばそうとしている政治って何なんだろうと嘆息せざるを得ません。まぁ「誰が見てもできないこと」を掲げた党に投票してしまうような有権者なのですから、次もロクなのを選ばないこと請け合いです。