解雇規制を緩和 自民・小泉小委が改革案 雇用流動化狙う(日本経済新聞)
自民党の小泉進次郎農林部会長がトップの「2020年以降の経済財政構想小委員会」が月内にまとめる社会保障制度改革案の骨格が分かった。若者でパートなどの非正規社員が増えているため、正規・非正規を問わず全ての労働者が社会保険に入れるようにする。企業への解雇規制を緩和し、成長産業への労働移動を後押しする。
(中略)
企業に負担増を求めるが、一方で経済界に要望の強い解雇規制の緩和を認める。労働者の学び直し支援も拡充し、衰退産業から成長産業に移りやすくして労働生産性を高める。政府は激変緩和のための財政支援をする。
電通社員の過労死が巷では話題ですが、近年は自殺者数が継続的に減少しているようで、まぁ現内閣は日本の20年来の悪夢の中ではマシな方なのかと思わないでもありません。とはいえ、この小泉進次郎みたいな周回遅れの規制緩和論者が今なお跋扈しているのですから油断は禁物です。日本経済を破壊した構造改革の悪夢の再来を許してはいけないでしょう。
まず「正規・非正規を問わず全ての労働者が社会保険に入れるようにする」というのは当たり前のことなのですが、何よりも非正規社員の増加を抑えることが先決です。そのためには、規制が皆無に近く何でも非正規で賄えてしまう現状にメスを入れなければなりません。規制緩和で非正規雇用を使いやすくして来た結果として、日本で働く人々の貧困化があり、日本の国内市場の購買力低下にも繋がっているのですから。必要なのは、規制緩和の誤りを認めて時計の針を巻き戻すことです。前に進みたければ、間違った道を引き返さなければ行けません。
そして、お決まりの解雇規制緩和云々です。この辺も非現実的と言いますか、経済誌には日本では正社員を解雇できないと書いてありますけれど、現実世界では正規社員の解雇なんて珍しくもなんともないわけです。まぁ南アフリカでもソマリアでもコロンビアでも殺人は禁止されているはずですが、普通に殺人が発生していることは言うまでもないでしょう。解雇も然り、本当に日本で解雇が禁止されているとしても、法律を守らない人はいくらでもいます。そして日本は、会社が労働法を守らないことに定評がある、取り締まるべき立場の人間が主体的に動かないことに定評のある社会です。
そもそも「衰退産業から成長産業に移りやすくして労働生産性を高める」とは、具体的にどんなケースを想定しているのでしょう。衰退産業勤務で会社から「いらない」と言われる人が、成長産業から引く手あまたなのかどうか、その辺は考慮されねばならないはずです。確かに90年代後半からの日本において成長産業とは専らデフレ産業でした。本来なら事業としては失敗レベルの低い収益性を、従業員を安く長く働かせることで補う、それが日本の経済界における成功モデルだったわけです。
衰退産業(製造業かな?)で人員整理を進め、そこからあぶれた人をデフレ産業に――そうした流れは既に実績があります。衰退産業から「ある意味で」成長産業への人の移動は今後の課題ではなく進行中の問題と言えますが、その結果はいかがなものでしょうか? 確かに「人を安く働かせたい」事業者の望みを叶えることには繋がっているのかも知れません。しかし、日本経済の労働生産性が上がったかと言えば、相も変わらず低いままです。まぁ一般的な「時間当りの」労働生産性は低くても「賃金辺りの」労働生産性なら、実は日本のそれは高かったりしますけれど。
たとえばアメリカの場合ですと、法律も社会も差別に厳しく、かつ訴訟リスクの高さも相まって日本のように恣意的な解雇は難しい側面もあったりします。差別的な理由と第三者から判断されうる解雇は日本ほどには簡単ではないわけです。そこで解雇されるのが差別的な取り扱いをされにくい階層(若かったり、白人であったり)であるならば、まぁ人の移動は起こりえるのかも知れません。逆に日本では特定の年齢層を狙い撃ちにしたリストラですとか、欧米の弁護士から見れば「格好の訴訟のネタ」になりそうなケースが一般的です。
元・勤務先から差別的な取り扱いを受けるような階層に属する人々であれば当然、次なる就職先を探す上でも差別的な取り扱いを受けやすい、すなわち採用されにくいことは言うまでもありません。要するに「再就職が難しい人」ほど解雇されやすいのが日本の現状で、このような社会において解雇規制緩和が「成長産業への労働移動」を促進するなどとは、マトモな人間であれば誰も考えられないことでしょう。先んじて必要なのはむしろ、企業に枷をかけていくことの方だと言えます。まぁ成長産業=デフレ産業という路線を継続するならば小泉進次郎の主張も成り立つのかも知れませんが。