さて先週は衆院選が行われ、自民党が過半数割れする結果に終わりました。「国民に人気」と持ち上げられることの多かった石破ですが、自分に勢いがある今ならば選挙に勝てると、そんな思い上がりがあったのでしょうか。しかるに投票率は53.85%と、戦後3番目となる低さを記録したそうです。とりわけ自民党支持層が現状に呆れて投票に行かない傾向が見られたとも伝えられています。無投票には意味がある、投票に「行かない」という選択肢は国政を動かすと証明されたと言えるでしょうか。
自民党が大きく票を減らした結果として恩恵を受けたのは野党第一党すなわち立憲民主で、議席を50ほど増やすことになりました。ただ議席数だけを見れば躍進と言えなくもありませんが、比例区での得票数は実のところ横ばいに近い数字と、党への支持は必ずしも高まっていないことが分かります。それでも小選挙区で自民党が自滅したおかげで、トップに躍り出た候補が相次いだわけです。
私からすると立憲民主は最も政策的に相容れない党ですので、小選挙区では立憲候補の当選を阻止すべく自民党候補に投票すべきか大いに迷いました。ただ元からの自民党支持層からすると、野田佳彦が率いるような党であれば自民党政治から大きく変わる虞はない、今の立憲民主に負けてもそれほど心配することはない、という判断も働いたように思います。だから自民党支持層は、自らが支持する党にお灸を据えるため選挙に行かなかった、立憲の候補が小選挙区で勝つのを黙認した、そんな側面もあるのではないでしょうか。
逆に得票を大きく伸ばしたのは民主の残党の中でも玉木派の方で、こちらは比例区で候補が足りず他党に当選を譲り渡すほどの票を集めました。結果、国民民主がキャスティングボートを握る格好となり、与党入りしないまま閣外協力するかどうかとの話が進んでいます。政権が交代しても政策が同じままでは無意味、逆に政権が変わらなくとも政策が変われば有意義と私は書いてきましたけれど、この行く末はどうなのでしょうね。国民民主には期待よりも懸念が勝るところですが、キャスティングボートを握った野党が与党の政策を変えさせる、という構図自体は良いと思います。
一方で一時は世論調査で立憲を上回る人気を得ていた維新は、大阪の小選挙区限定で圧倒的な強さを見せるも全国的な支持は失速しており、議席を減らす結果に終わりました。勢いで野党第一党の座に躍り出るかに見えた新興政党は何度となく見てきましたけれど、どれも民主の残党の牙城を崩すには至らず、党勢を維持することの難しさを感じさせるところでしょうか。所詮は一時的な流行に乗っただけ、急ごしらえのメンツでは遠からずボロが出る、維新も一つの曲がり角なのかも知れません。
そして共産党もまた議席を減らすことになりました。民主の残党に選挙区を譲る自滅ムーヴからの転換も見られたのですが、相変わらず偏見こそ持たれたままである一方、従来の支持層は他党へと目が向いてしまっているようです。昔は他党とも一線を画したところはあったのかも知れませんが、親米路線と家計的な財政理解は自民や立憲と大差なく、敢えて共産党に票を投じる意味は何なのか問われるところもあったように思います。
今回の自民党の裏金問題も大元は共産党の機関紙である赤旗の報道に端を発しており、そうした点では一定の評価もされてしかるべきとは言えます。ただ自民党の裏金問題を焚き付けた結果として議席を得たのは立憲民主、得票を増やしたのは国民民主と、働きに比して得たものは皆無のようです。もっとも来る総理大臣指名選挙に向けては共産党を政権に入れないと明言してきた立憲にすり寄る姿勢を見せるなど、政局を優先する志の低さは隠せないところ、政策の転換ではなく政権の交代に重きを置くならば、もう党を解散してしまった方が良いでしょう。
なお世代別の投票傾向を見ると中高年層は立憲、若年層は国民への支持が厚いとされています。投票率の高い世代に支持層が固まっていることで立憲は今回の議席数を勝ち得たところですが、若年層の投票率が高まれば結果は変わったことでしょう。投票率が低ければ立憲優位は保たれる、しかし若者が投票に行けば相対的に立憲が弱まって維新や国民が伸びてくるものと予想されます。どうも立憲支持層と思われる人が「無投票や白票には意味がない、選挙に行けば世の中は変わる!」と熱弁しているケースを多く見るのですけれど、その結果を理解しているのでしょうかね?
まぁ自民・公明の過半数が崩れたことで一定の混乱は予想される、従来路線の継続に一つのハードルが出来たことは確かです。とは言え野党の閣外協力でハードルを乗り越えてしまう、親米・緊縮路線が継続されることは普通にあり得ます。やはり政治が変わるためには「中道」と「右派」の分裂が必要になるというのが私の考えです。選挙の顔として敗北を喫した石破が党内の求心力を失い、高市あたりを中心としたグループとの間で対立が激化したら、少しはチャンスかも知れません。もっとも民主の残党が路線対立で簡単に党を割ってしまうのとは裏腹に、自民党は派閥までは作っても党は割らない、そこは手強いところです。