子育てに関する根拠のない神話には、はっきりNOを。答えのない問いには、エビデンスに基づく考え方や行動のヒントを。専門性に裏付けられたSNSでの発信が親世代に広く支持されている小児科医・新生児科医の今西洋介さん(ふらいと先生)。子育てに日々真剣に取り組む親御さんたちに届けたい最新知識をまとめた新刊『医師が本当に伝えたい 12歳までの育児の真実』(日経BP)から、「親はどこまで子どもに厳しくするべき?」という永遠の悩みに答えます。

「厳しい子育て」は子どもにどう影響する?

 子育ては私たちにとって人生最大の冒険の一つです。多くの大人が親になると、「子どもにどこまで厳しくするべきか」という永遠の問いに直面します。

 今回は、最新の研究結果や専門家の見解をもとに、子育てにおける適切な厳しさのバランスを探っていきます。親としての旅路は決して平たんなものではありませんが、愛情と知恵を持って進めば、必ず道は開けるはずです。

 過度に厳格な子育てが子どもに及ぼす影響について、これまでも多くの研究が行われてきました。その結果、厳しすぎる環境で育った子どもたちは、さまざまな課題に直面する可能性が高いことが明らかになっています。

 最新の研究によると、過度に厳格または権威的な子育ては、子どもの行動上の問題、不安、自尊心の低下、感情の伝達の困難につながる可能性があることが示されています★1

 特に権威的な親のもとで育った子どもは、うつ病や不安障害のリスクが高まる傾向にあります。また、自己制御の問題を経験する可能性も指摘されています。さらに、厳しい子育てと、青少年期における非行や反抗的な行動との関連性も示されています。これは過度の厳しさが逆効果となり、子どもの反発を招く可能性があることを示唆しています★2

権威的な親のもとで育った子どもは、うつ病や不安障害のリスクが高まる傾向にある。(写真:kapinon/stock.adobe.com)
権威的な親のもとで育った子どもは、うつ病や不安障害のリスクが高まる傾向にある。(写真:kapinon/stock.adobe.com)
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 これらの知見は、厳しさ一辺倒の子育てが、必ずしも望ましい結果をもたらさないことを明確に示しています。子どもの健全な発達のためには、単に厳しくするだけでなく、より複雑なアプローチが必要であることがわかります。

最適な子育てアプローチを探る

 多くの研究者は、「信頼に基づいた子育て」スタイルが最も効果的であると提唱しています。これは子どもへの高い期待と温かさのバランスを取りつつ、子どもの独立性を尊重するものです。

 最新の研究結果によると、信頼に基づいた子育ては、子どもへの高い期待と温かさ、そして適切な養育を組み合わせたものです。このスタイルは、子どもの高い自尊心、優れた社会的スキル、良好な学業成績などのプラスの結果と関連していることもわかっています★3

 信頼に基づいた子育てを実践する親は、一貫した境界線を設けながらも、子どもの独立性を尊重し、オープンなコミュニケーションを心がけます。これにより、子どもは安心感を得ながら、自己制御や責任感を身につけていくことができます。

 重要なことは単に厳しくするのではなく、愛情深く、かつ適切な期待を持って子どもに接することです。例えば、ルールを設ける際にはその理由を子どもに説明し、理解を促すことが大切です。また、子どもの年齢や発達段階に応じて、徐々に自己決定の機会を増やしていくことも効果的です。

重要なことは単に厳しくするのではなく、愛情深く、適切な期待を持って子どもに接すること。(写真:arc image gallery/stock.adobe.com)
重要なことは単に厳しくするのではなく、愛情深く、適切な期待を持って子どもに接すること。(写真:arc image gallery/stock.adobe.com)
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 このバランスの取れたアプローチは、子どもの自信を育み、社会性を高め、学習意欲を促します。同時に、親子関係の質を高め、互いの信頼関係を深めることにもつながります。

文化的背景と子育ての変化

 子育てのアプローチは文化によって異なる場合があります。最新の研究では、子育てスタイルの影響が文化によって異なる可能性が指摘されています。

 例えば、権威的な子育ては、米国やアラブ諸国の一部の少数民族にとって、より有益であることがわかっています。これらの文化圏では、厳格な規律や高い期待が子どもの成功につながると考えられている傾向があります。

 一方で、興味深いことに、スペインの家族を対象とした研究★4では、3世代にわたって、甘やかす(温かさのレベルは高いが、厳しさのレベルは低い)子育てが権威的な子育てと同等か、それ以上に有益であることが示されました。これは文化的な価値観や社会的な期待が、効果的な子育てスタイルの判断に大きな影響を与えることを示唆しています。

 さらにこの研究では、子育てスタイルと子どもの将来的な成果との関係は、世代を超えて一貫していることも示しています。つまり、時代が変わっても、温かさと適切な期待のバランスを取ることの重要性は変わらないのです。

 これは子育てに「唯一の正解」が存在しないことを示唆するものです。要するに、親は自分の文化的背景を考慮しつつ、子どもの個性に合わせたアプローチを見つける必要があるのです。同時に、社会の変化や新たな知見に対して柔軟に対応していくことも重要です。

伝えたいこと

 子育てをしていると、どうしても子どもに厳しく接しなければならないことがあるでしょう。親の悩みや不安は、子どもへの深い愛情の表れです。完璧な親などいません。大切なのは、子どもの個性を尊重しながら、愛情と一貫性を持って接することです。

 最新の研究結果が示すように、過度に厳しい子育ては子どもの発達にマイナスの影響を与える可能性があります。しかし、これは決して厳しさが不要だということではありません。適切な境界線を設け、合理的な期待を持つことは、子どもが健全に成長していく上でとても重要です。

 信頼に基づいた子育てスタイル、つまり温かさと適切な期待の適度なバランスが、多くの場合、最も効果的であることがわかっています。このスタイルは、子どもの自尊心を高め、社会的スキルを育み、学業成績の向上にもつながります。同時に、文化的背景や個々の家族の状況によって最適な育児法は異なるので、家族にとって何が最善かを考え、必要に応じて柔軟に対応することが大切です。

 子育ては日々学びの連続です。時には厳しくする必要もあるでしょう。しかし、それは子どもを傷つけるためではなく、健全な成長を促すためです。失敗を恐れず、子どもとともに成長していく姿勢が大切です。

 皆さんの愛情と努力は、必ず子どもの心に届きます。どうか自信を持って、ご自身の子育てを続けてください。温かさと適切な期待のバランスを取りながら、オープンなコミュニケーションを心がけることで、素晴らしい親子関係を築くことができるはずです。

 また、子育ては一人で抱え込むものではありません。積極的に周囲の支援を求め、必要に応じて専門家のアドバイスを受けましょう。あなたの努力は必ず報われます。ぜひ胸を張って、愛情豊かな子育てを続けていってください。

参考文献
★1 Kuppens S, et al. J Child Fam Stud 2019;28 (1):168-181.
★2 Ma C, et al. BMC Psychology 2023; 11:16.
★3 Sarwar S. J Education and Educational Development 2016; 3(2):222-249.
★4 Garcia OF, et al. Int J Environ Res Public Health 2020; 17(20):7487.
「ふらいと先生のニュースレター」でも人気の、小児科医・新生児科医の今西洋介さん。今西さんの新刊『医師が本当に伝えたい 12歳までの育児の真実』から、子育てに真剣に取り組む親御さんに届けたい最新知識をご紹介します。

今西洋介著/日経BP/1980円(税込み)