京都は、年間5千万人が訪れる大観光都市である。それゆえに、京都に対して何らかのイメージを持っている人は多いだろう。舞妓(まいこ)さん、金閣寺、京料理、あるいは「イケズ」。だがそんな定型の「京都らしさ」は、観光客から見た「観光都市」としての姿である。住民から見た「地方都市」としての京都には、また別の顔がある──。 京都で育ち、今も京都で暮らす著者は、本書の中でそう語る。といっても、決して上から教え諭すような口調ではない。あくまでも目線は低く、口調は柔らか。かつ、歴史を専門とする直木賞作家ならではの、高い解像度と親しみやすいエピソードで、「ほら、こんなところにもこんな歴史や物語が」とそっと共有するように、京都の町にしみこんだ歴史と文化の断片の数々を、様々(さまざま)に紹介してくれるのである。 例えば京都は、人口当たりの大学数が日本一で、各地から若者が多く集まることで知られるが、その歴史を遡(さ