川梅(かわめ)勢にとっては青天の霹靂である。自分たちが敵と戦うより先に味方の貝腰(かいごし)勢が撃破されてしまった。転移者の鬼岩番(おにいわばん)に聞いた「長篠の戦い」をモデルにするつもりだった釉姫(ゆうひめ)は、味方に鳶ヶ巣山砦(とびがすやまとりで)を襲った別働隊の役割を期待していたのだが……。 「やむをえぬ。何、やることは変わらぬ。敵を迎え撃ち、打ち破るだけじゃ」 釉姫は淡々と述べた。その無表情に潜んだ不機嫌に一部の武士は畏れを覚えた。ここまでの手練手管(てれんてくだ)から主君のことを年齢相応の小娘と侮っている家臣は最早いない。新しく傘下に加わった者も周囲に感化されている。 ちなみに新しく川梅勢に加わった人材の大半は分家筋や次男三男の非主流派といえる者たちだ。やむなく荒野(あらや)氏についた本家や長男に入れ替わり、自らの身分を上昇させる意欲が良くも悪くも強い。どちらが勝ってもお家が生き