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大阪万博
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母を捨てた。家族と呼べるのは奥様をのぞけば、母と弟の二人になるけれども、実家で暮らす母とは昨春から元旦に十五分くらい顔をあわせたきりであり、弟とは三年近く電話もしていない。母と弟が何をしているのか知らない。弟は勝手に生きていくはず。問題は後期高齢者の母である。母は小さな問題を起こしては後始末を僕に押し付けてくる人だった。弟やその他親族から面倒を見るのは長男の僕の役目と言われ、社会的な枠組みも長男が親の面倒をみるのが当然とされているので、仕方なくその役を引き受けてきた。 だが、僕は母を捨てた。僕が抱えている三大ストレス「家族」「こづかい月一万九千円」「ヤクルトスワローズの戦績」のうちひとつがなくなったのだ。ブラボー!「捨てる」は姨捨山への放棄ではなく、「会わない」「連絡取らない」「気にしない」である。日常生活から親を切り捨てるという意味だ。昨春から続けている。「たまに電話を寄こしなさい。あん
4月末、とある飲食店が廃業した。個人経営の小さな店だ。特定されないよう、店名と売り物は伏せておく。ウチの会社は食材と消耗品を納品していた。オーナーシェフは二代目で、先代から五十年以上も続いている老舗。今の店舗に移ってきたのは三年前で、移転の際に厨房機器を一部刷新したので機器や設備の老朽化が廃業の原因ではない。跡継ぎはなく、オーナー夫婦は六十代前半だが、僕よりも元気なくらいだ。売上や集客も好調だった。だから、廃業の理由をオーナーは明かさなかったけれども、お米や食材の価格高騰しか考えられなかった。 営業最終日、店に足を運んだ。なんとなく気まずい。訪問するたびに入口ドアに「価格改訂のお知らせ」が貼られていて、文面がお詫び調なのを見てなんとも言えない気分になっていた。最後の価格改訂は3月末。お詫びするのも疲れたのだろう、お知らせの文面はなく、ただ黒マジックの斜線で従来の価格を消し、新価格を赤マジッ
最近、氷河期世代支援という言葉をニュースで見る機会が増えた。「時代に見捨てられてきた氷河期世代を救おう!」キャンペーンである。1973年(生まれは1974年2月)の僕は就職氷河期世代であると同時に団塊ジュニア世代で、当該世代は人数が多い。30年近く放置しておいて、定年が視野に入ってきたこの期に及んで、各政党が選挙を見据えて氷河期世代支援策を訴えている。バカにしているとしか思えない。「待ったなしの状況」とか「学び直し(リスキリング)の支援も行っていきたい」とか言っちゃっている政治家の先生こそ学びなおした方がよろしいのではないか。 何が悲しくて50をこえてから学び直さなきゃいけないのだ。それこそ「氷河期世代は何も学んでいない」「空っぽの世代」と言っているようなものだ。かつて基礎化粧品SK-IIのCMで桃井かおりさんが「30代まではいいのよー」と仰っていたのは正しい。40代後半以降になって「今か
「将来なくなる仕事」というくだらない記事が定期的に雑誌やネットにあらわれる。「技術の発達で今現在あなたが従事している仕事はなくなるよー」という身も蓋もない内容で、そのような記事を載せていた雑誌が紙面に掲載していた仕事職業より先に廃刊になっていたのは体を張ったギャグだったのだろう。だいたい技術によって仕事がなくなるのはごく当たり前なので「ヤバい!どうしよう!」と慌てる側も「ヤバいぞ。どないするの?」と煽る側もどうかと思う次第であり、技術の発達の有無に関わらず能力の低さで職を失うほうを心配した方がよろしいのではないかと愚考する次第なのである。 そもそも仕事がなくなるのは良いことである。仕事がなくなって困るのではなく、仕事がなくなって生活がどうなるかわからないから困るのである。僕は営業職として30年くらい働いてきた。はっきりいって飽きた。石川さゆりさんは上野発の夜行列車がなくなっても何十年間も「
僕は食品会社の営業部長。本来の仕事は法人向けの新規開発だが、昨今の米不足の影響で業務用米の確保に日々、駆け回っている。政府備蓄米の流通がはじまったが、以前の記事で予想したとおり米の価格は「若干落ちついたかな?」という程度で、価格上昇傾向は変わっていない。マスコミで報道されているのは一般向けの米だが、僕が取り扱っている業務用米の価格は5月以降の値上げ傾向は変わらない。鈍化もしていない。取引している業務用米の価格は平均するとキロ700円台後半。少し早い話になるが、この秋以降も同じ傾向が続くという見通しも米業者さんからも出始めている。元通りにはならない気がしてきている。備蓄米を毎月放出するらしいけど価格の安定にはどうかな。期待しないほうがよさそうだ。 勤めている会社は給食事業もやっている。給食事業は給食委託契約のなかで一食あたりの食材費が決められている。契約の条件がそのままでは、業務用米をはじめ
僕は、食品会社の営業部長だ。会社は中小企業。業務用食品から給食事業まで、良くいえば手広く、悪くいえば計画性なく食に関わる仕事なら手を出している。大手から極小、食品会社から給食会社、それから町中華や立ち飲み屋まであらゆる規模の顧客・競合と日々戦っている。慢性的な人材不足状況は悪化の一途で、部長職の僕が現場に入りパートさんから亭主と物価高への愚痴を聞かされながら漬物をつくっているほど。新規採用も苦戦している。人材不足、売り手有利。そのなかで僕が監督している営業部は三年前から新規採用を見送っている。コスパとタイパが悪いからだ。超有名企業やガンガンな会社が、アホみたいに新入社員をもちあげてる涙ぐましい入社式をテレビニュースで見て、新卒採用を止めた判断は間違っていないと確信した。 理由はいくつかある。一つめは、新卒採用に力を入れている大手に対抗することは不可能だからだ。初任給30万を提示している有名
僕は食品業界(給食会社)の中の人(営業部長)、まだまだ業務用のお米の確保に追われている。営業部が米の確保に奔走しているのは、業務用の米の目途が立たなければ新規開発どころではないからだ。ウチの会社は中小企業だ。事業展開にしくじったら持ちこたえる体力はない。必死なのだ。 契約している米業者からは年末に「現状以上の取扱量は約束できない。無理」と伝えられていた。先日、政府備蓄米の放出というポジティブな要素があった。業務米の取扱量がどうなるか期待していたが、残念ながら好転しなかった。契約米業者からはいい回答はなかった。それどころか、すでに4月の値上げが決まっていたが、5月以降も値上げが決まった。グラフは昨春からのウチが納品している業務用のお米の価格の推移である。A社がメインで取扱い量の70パーセントくらいをカバーしている。扱いが大きいので価格も抑えてもらっている。その他BCD社が高いというわけではな
僕は食品業界の片隅で働く営業部長だ。僕が勤めている会社も、米の価格と量の確保に苦戦している。業務用のお米については、昨年の夏ぐらいから価格が上がりはじめ、取引のある業者(数社)からは、来月からの値上げもすでに決定している。米を使用する商品から別の食材使用する商品へのシフトを進めるなど、事業計画の修正を終えたところだ。市場に出回っている米が少ないため、価格が高騰している。理由については米の価格の高騰を見越して(あるいは誘発して)、他業界や転売ヤーが大量に買い付けたからといわれているが、どうだろう?それだけではこの量の不足を説明できない気もする。特にネットやSNSで話題になる個人レベルの転売ヤーでは取り扱い料が少なすぎるので、原因のほんの一部にすぎないと僕は考えている。 そういう状況下で3月10日に政府備蓄米の入札がおこなわれた。3月13日に入札結果が開示される予定。明日だね。入札を受けて米の
就職氷河期世代が酷い目に遭っているという話を見聞きするようになった。中高年に差し掛かって賃金的にも立場的にも社会的にも弱い立場にあるという話だ。特に大手企業の新卒初任給が30万以上になると報じられてから「あれ?氷河期世代一人負けじゃない?」「悲惨だよね」みたいなことになっている。1973年(生まれは1974年2月)の僕は就職氷河期世代であると同時に団塊ジュニア世代だ。1996年の新卒採用時はまあまあ苦戦した。数十社にアプローチして内定がもらえなかったときは、心が折れかかった。有名私大卒は武器にならなかった。同じような人間が数多くいたからだ。オンシャノトリクミガー、オンシャノキギョウリネンガー、オンシャ、オンシャなどとバカみたいに気持ちの入っていないことを言い続けているうちに虚無な気分になったものである。 僕は、希望する企業や業界に入るのは早々に諦め、入れるところに入る方向へ舵を切ったことが
僕は食品業界の片隅で働く営業部長。業務用のお米の価格の高騰と取扱量の不足という事態に直面している。ウチの会社はお米の納品先をいくつか持っていて、7割程度をメインの業者、その他3割を数社から納品している。いずれの業者からも値上げとこれ以上の取扱は難しいという打診を受けている。苦境を乗り切るために、お米を使わない商品へのシフト等企業努力をしているが給食部門だけはどうしてもお米を使わざるをえないため苦労している。給食は食材費が定められているので「お米をやめてパンにしましょう」というわけにはいかないという事情もある。 ウチがお米を必要としているという情報を聞きつけたのだろうね、とある業者がお米を買いませんかと売り込みをかけてきた。これまで取引のなかった法人だ。仕入れ担当がサンプル提供と試食を依頼したうえで「保管状況を確認したい」と告げたら、他にもいくらでも買ってくれるところはあると捨て台詞を残して
僕は食品会社に勤務する営業部長だ。中小企業なのでやることが多い。新規開発営業の他にもイベント時のスーツアクター(トナカイくん/トン吉)当番、トナカイくんとトン吉の保守管理等重要業務も任されている。最近は、食材高騰や人件費高騰や人不足の直撃を受け、それらを担当する中間管理職が慌ただしく動いているため、彼らの手が回らないマネジメント業務もやらされている。事業本部長の代理である。事業本部長は「代理だから難しく考えなくていーよー。難題に当たったら持ち帰ってねー」とライト感覚で言ってくれた。 取り急ぎ対応する必要があったのは某小規模事業所。責任者とその他パートスタッフの関係がうまくいっていないという報告を受けての対応だ。マネジメント業務を代理で受ける際に、落ちついている事業所を任せるという約束をしていたので、ルール違反っちゃあ違反だけれども、事業所収益は問題がないので、そういう意味で問題がないという
僕は食品業界で働く営業部長。年末から取引のある米業者さんと交渉を続けている。先日、政府備蓄米21万トンの放出が決まった。微妙なタイミング。ちなみにニュースで「5キロ平均4千円」と伝えられている米の価格は、一般向けのお米のものだ。僕が交渉しているのは業務用米。業務用米(ブレンド米)は昨春のキロ400円弱から年末には600円台に急上昇している。さらにヤバいのは取扱量の制限。各業者の担当者から「これ以上の取扱は約束できない」と伝えられた。価格高騰と取扱量の制限の原因について担当者に訊ねると、大手業者や新規業者が大量に確保してとにかく回ってこない、ものがない、という答えが返ってきた。 値段が高い。量も足りない。嘆いていても仕方がない。ウチの会社でも、米飯を使う商品(弁当、おにぎり)の生産を他の商品へシフトしている。それでも給食部門(社食、病院、福祉施設、保育所)では主食の米を減らすのは難しいため、
僕は食品会社で働くまもなく51歳になる中間管理職。うっすらと早期退職を考えている。会社上層部からは目の敵にされてこれ以上の出世もないし、30年続けてきた営業職に飽きてしまったし、商談相手のムカつく言動に対する耐性も擦り切れているため、いつブチキレて「屋上へ行こうぜ……」と言い出しかねない状態だからだ。切実なのである。奥様に意思を打ち明けても彼女は「辞めて何をするの?」と返すばかりで、「やりたいことをやるよ」「具体的には?」「知らず知らず隠してた本当の声を……」「YOASOBIっぽく言って誤魔化さないで」という流れで早期退職はいまだ認められていない。きっつー。 バルセロナで豆腐屋になった 定年後の「一身二生」奮闘記 (岩波新書) 作者:清水 建宇 岩波書店 Amazon 奥様から「真面目に考えなさい」の言葉とともに参考図書として勧められたのが本書『バルセロナで豆腐屋になった──定年後の「一身
僕は食品会社で働く営業部長だ。人不足により、ヘルプで現場に赴く機会が増えている。昨日は、ウチの会社がマネジメントを任されている飲食店のヘルプだった。仕事自体は周囲の声を聞いて、決められたとおり、ちゃっちゃっちゃっと働くだけなので楽勝。運営部門の担当者からマネジメント業務も任されていた。そこで働いていただいているパートスタッフの労働契約更新に係るヒアリングだ。「基本的には皆さん継続と聞いています。問題ありません」と事前に聞かされていた。 出勤している6名のパートさんから話を聞いた。全員が現在の働き方を継続したいという希望を持っていた。予算作成のためには労務費をある程度確定させる必要がある。僕はそれぞれのパートさんにどれくらい働きたいのか訊ねた。全員が「年収の壁ギリギリまで働きたい」意向。年収の壁を越えて、たくさん働きたいという人はいなかった。メインは旦那の収入。「では年間で103万円を切るよ
一般向けの家庭用米の価格高騰が話題になっているけど、業務用米の価格も高騰している。上がり方は業務用米の方がエグいかもしれない。交渉決裂で代替ルートを見つけるといっても、トン単位の米を確保するのが難しいことをコメ業者は分かっているため強気に出てくるからだ。僕は食品会社に勤めている。関東エリアを中心に展開している中小企業だ。大きな食品系企業に比べれば全然少ないけれど、それでも相応の量の業務用米を取り扱っている。 業務用米は、メインの米業者と独占契約しており、使用量のだいたい7割程度はカバーできている。残り3割を5社でカバーしているような状況だ。各社にはグレード別に国産のブレンド米をお願いしている。値段は昨年の夏前から上がり続けている。当初は「新米が流通しはじめる秋になれば価格は落ち着く」と説明を受けてきた。報道でも伝えられたとおりだ。だからスーパーで一般向けの米が品薄になっても慌てずに秋を待っ
僕は食品会社に勤める営業部長だ。まだ給食営業の仕事も続けている。昨年12月頭に、得意先の紹介でとある静岡県のメーカーE社の社員食堂の案件が飛び込んできた。E社は現在委託している給食会社が一年間で三回も値上げを打診してきたのをきっかけに交渉が決裂、4月から運営してくれる会社を探しているという。取引先の手前、絶対にしくじってはいけない案件だった。E社の担当者との初めての面談で3社に声がけしたと伝えられた。僕は、70食程度の小さい社員食堂とはいっても年末年始が入るので時間がないこと、提案や試食等の選定を急ピッチで進める必要があること、取引確認や調査は先行して勧めてほしいことを依頼した。 で、順調に企画提案とプレゼンをクリアして最終候補の1社に残り、試食会を実施する段階になった。担当者は「最終確認です」と言った。担当者からは6名参加と告げられた。「飾ることなく普通に社員食堂で提供される内容の食事」
フジテレビの社員向け説明会が紛糾していた。会社や上層部への不満が爆発したようだ。会社愛の強い人が多いようだ。微笑ましいが、外から見ていると会社や上層部を信用しすぎではなかったの?と心配になる。かつて僕が勤めていた会社がそうだったように、上役の関与した成功体験が大きく、現在の企業の礎になっていると、それが現代に通用しているのかをチェックすることなく、盲信してしまうものだ。「信用するな」ということではなく、「信用しすぎるのもどうなの?」という話だ。 普段から疑いの目を持ち続けることの大切さを、フジテレビのような一流企業に勤めている人なら理屈では分かっているはずだ。だが、人間は実際に経験したことからしか学ばないという面もある。僕は、会社や上層部を信頼・信用しすぎてはいけないということを実体験で学んだ。当時はムカついたけれども、疑いの目を持つことができて、今は感謝している。20数年前、新卒で入社し
『教えて!からあげ先生 はじめての生成AI』(からあげ (著), いまがわ (著), ずっきー (著))を読んだ(ご恵贈ありがとうございます!)。からあげ先生(id:karaage)は、気鋭のデータサイエンティストと世間では認識されているようだが、僕にとっては数少ないブログ友達の一人である。実は、数か月前にからあげ先生から新著を出す旨のメッセージで受けておりました。唐突に「漫画本を出します」とおっしゃるので「すごいね!漫画を書くんだ」と返したら「いえ。自分が漫画のキャラクターになります」と本気なのか冗談なのかわからない回答が返ってきた。なるへそ。当時、仕事が忙しかったので、そのままスマホをそっ閉じしたのを昨日のことのように記憶している。実際の書籍を開いたらホントにからあげ先生がドラえもんポジションの主人公キャラになっていた。どのように作中に登場するのかと思ったら、登場人物の自宅に突然登場。
今は亡き上司の言葉をまとめてみました。久しぶりなので入門者にもわかりやすい「オールタイムベスト」と、昨年発掘された手帳に記録されたものからセレクトした「発掘品」で構成されてます。激動の令和を生き抜くヒントにしてもらいたい。 【オールタイムベスト】 ・「刺身が生なんだが……」刺身に対する熱いクレーム。 ・「妻の配偶者が死んだ……」斬新な欠勤理由。人間て想定外の事態に遭遇したとき「お前や」のひとことが出ないものですね。その後無事に離婚されました。 ・「俺はチャンスをピンチに変える男だ…」やめてくれ ・「腹を切って話し合いましょうや」本音で話そうの意らしいがなぜか切腹ハラスメントを強要される。そういえば上司は三波春夫と三島由紀夫が好きでした。 ・「強いていえば、人間の業…ですかね…」クライアントからトラブルの原因を質問されたときのひとこと。汎用性が高すぎる言葉です。 ・「最後に…私事になりますが
食品会社の営業部長だが、ときどき、管理業務も任されている。つか、やらされている。契約違反ではなかろうか。今月に入ってから年末をもって契約満了となる事業を任されることになった。年末で終わる仕事を今さら?嫌な予感しかない。契約満了となるのはオーナーと委託契約を結び当社が運営しているレストランである。長年契約更新してきたが、3ヶ月前にオーナーから契約満了(更新の意思なし)を伝えられた。食堂は一旦クローズして、工事期間を経て数ヶ月後にリニューアルする予定。リニューアルを機に業態を変えるので当社はお役御免となった。契約満了の事業終了。そこに怨念はない。 とはいっても絡んでいる人はいる。現場で働くスタッフだ。社員数名とパートは十数名。社員は年明けから異動が決定。パートは雇い止めになるけど異動先の紹介で対応。うまくいっていると聞いていたが僕の出番になった。何かが起きている。会社上層部の「トラブルが発生し
両親と僕と弟の家族四人で撮った写真は一枚しかない。1980年(昭和55年)に油壷マリンパークのフォトスポットでカメラマンに撮ってもらったものだ。写真は今も実家の母の寝室に飾ってある。カメラと家族が壊れていたわけではない。スマホやデジカメはなかった。今のように気軽に写真を撮る時代ではなかったのだ。1980年代、父は仕事が忙しかった。平日は朝早く出て行って夜遅くまで働いていたので、顔を合わせることはめったになかった。今も思い出すのは、夜、布団のなかでうとうとしながら聞いた父の運転する日産サニーカリフォルニアの「ぷすぷすぷす」というエンジン音。家族で泊まりの旅行に出かけたのは三回。1980年代前半に伊豆方面に二回、90年代、父が亡くなる直前の京都旅行。旅行の写真が残っている。父はカメラを持ち歩いていたが、風景写真が多く、家族の写真はあっても四人一緒に撮影したものはなかった。父は生前デザイナーとし
僕は食品会社の営業部長。某NPO法人との商談はクライマックスを迎えた。相手は代表者Aと副代表者Bである。先方の本部を訪れて面談室に通され、いよいよ見積書の提示である。そのNPOは生活に困窮している人に食事を無償提供する事業を行っていた。「私たちに出来ることは温かい食事を提供することぐらいです。正直、厳しいですが私たちを待っている人たちのために頑張りたいです」「ご協力いただける企業様には感謝しかありません」とABブラザーズは言うと、事業の意義を僕に伝えた。確かに、この世知辛い世の中で素晴らしい事業を行っていた。特に感想はなかったが感想を求めるような顔で圧をかけてくるので「感銘を受けました」とひとこと感想を述べた。 で、見積書の提示である。当該NPOの事業で使用する食材なので、出来るかぎりの金額を提示させていただいた。一昔前の言い回しなら「勉強させていただいた」金額である。見積額を見たABブラ
食品会社の営業部長という仕事をしているわけだが、中小企業の悲哀といいますか、営業以外の仕事もぽちぽちやらなければならない。任されるのは本業の食品事業ではなく、その他もろもろの事業である。そのなかに飲食店等のコンサルティング事業がある。個人営業の飲食店に対するコンサル・アドバイスを行っており、僕も営業の立場でかかわった案件にヘルプとして携わっているというわけである。なお、このヘルプにおいて発生するのは責任だけであり手当等はなく、また本業である営業にマイナスが出ても自己責任とされている。搾取である。クソが。今、僕が頭脳の一グラムほどを悩ませている案件がある。この苦悩を公開することで発散したい。 悩みのもとは県内のとある個人経営の洋食店である。経営自体は悪くはない。オーナーが当社に依頼してきたのは衛生面の不安と労務管理の改善であった。衛生面は改善に向けてやることが決まっているのでパッケージを入れ
僕はフミコフミオ。食品会社の営業部長だ。年末のこの時期は歳末商戦セールスの終盤で大忙しなのだけれども、今年は少し様子が違っている。クライアントへの物価高騰対応のための値上げ申請が加わって追われている。ほぼすべての原材料のコストが上がっているので、たとえば原価が高い商品の生産を調整して他のコストのかからない商品をあてるといった企業努力ができず、クライアントにお願いをしているのである。申し入れに対して「企業努力でなんとかしてください」「他の会社さんに切り替えますよ」という冷血な企業は圧倒的に少なくて助かっている。だいたいが「仕方ないっすねー」みたいな感じで値上げ幅を少なくする着地点妥協点を話し合いで見つける流れになる。助かっている。結論からいえば日本人は気分とムードなのだ。仕方ないっすねーがついつい口をついて出てしまうほど、メディアが連日値上げを連呼してくれているから、「値上げヤバい」な気分と
僕は食品会社の営業部長だ。会社の規模は中小である。最近、実感していることがある。それは、どれだけ政府や社会が「下請けイジメはノー」といっても、下請けに対する圧力はなくならず、一歩進んでビジネスパートナーとして扱われることなど夢のまた夢ということ。こんなふうに考えているのは、下請け風情がビジネスパートナーと錯覚するほど惨めなものはないと思わされる出来事があったからだ。 先日、社内でお得意様M社との値上げ交渉について盛り上がっていた。M社は30年以上社員食堂受託運営契約を継続してきた取引先で、一部上場の超大手企業だ。僕は転職でやってきたときからM社のような一流企業がなぜウチのような小さい会社と長年取引をしているのか不思議だった。会社上層部や古参社員から「当社のサービスが長年にわたって評価されているから」という説明を聞かされても謎は深まるばかり。サービスが評価されているのなら、相応の金額で契約し
僕は食品会社の営業部長。先日、部下から相談を受けた。既存クライアントとの新プロジェクトで問題が起きているという。すでに具体的な提案を提示する段階にある案件だ。「納期がやばいです」と部下は説明した。なぜやばいのか。理解に苦しんだ。難しい案件ではないからだ。類似案件の実績が多数ある、楽勝な案件だと評価していたからだ。企画部の主任(女性)がプロジェクトリーダーとなって辣腕をふるっていると聞いていたが、部下によれば彼女の存在証明が進捗を阻んでいるらしい。意味がわからない。 驚いた。企画部主任が、既存のノウハウを活用すればいいところを、ゼロから仕事を組み立てていたからだ。もちろん、一つ一つの仕事に全力を尽くすことは良いことである。しかし、ケースバイケースだ。当案件のように、クライアントから「前回と同じような仕事」を求められ、そして相応の金額しか支払われていない仕事では過去の実績を活用してうまくこなす
先日、某取引先との価格交渉において先方より解約通知を受けた。心よりお呪い申し上げます。最近「食材高騰」という言葉が一人歩きしておりますので、今回、営業担当をさせていただいた立場からまとめを残しておきたい。この記事が食材高騰に悩むすべての方にとって役にたつものとなることを心から願っている。営業という仕事の持つ底力のしょぼさ、相手に情報を正しく発信し続けたところで聞く耳を持っていなければ何の意味もないという無力感、「価格転嫁なんて綺麗事だよね」というリアルについて少しでもご理解が深まるきっかけになれば幸いである。 僕の勤める会社では、本業の食品事業のほかに給食事業も行っている。その給食事業で昨今の食材費高騰が直撃している。特に深刻なのは米の仕入れ価格の大幅な値上げである。10月からの仕入れ価格は平均すると春先の納品価格の160%程度。経営努力はしているが、米は主食なので使用量を減らすことは難し
体調不良で休職していた東海営業所の責任者が退職することになった。東海営業所は新設された拠点のため軌道に乗っていない。会社上層部が立てた対前年売上400%という無謀な目標の達成は絶望的である。このように課題は山積みなうえ、後任の目途は立っていない。後任は、上役にあたる担当役員が代行すればいいのだが、金融機関からやってきて定年を待つだけの無気力な人間がわざわざ火中の栗を拾うはずがなく、アチアチの栗を水面下で僕に投げつけたきたのは数週間前のことである。「まず君の顔が浮かんだ」「君しかいない」「他の人には断られている」「誰もやりたがらない」「君なら難局を乗り越えられる」「営業部長は楽な仕事で物足りないだろ」「やりがいが欲しくないか」数々の矛盾した言葉、人の気持ちを逆なでする言葉で、僕の心を揺さぶろうとした。パンチを喰らったボクサーのように脳が揺れていたのは担当役員の方であった。僕は生活のために仕事
25年前、僕は二十代の若者で、仕事に追われる日々を送っていた。誇張抜きに実家と職場を往復するだけの毎日。自宅の近くに幼稚園バスが送迎にやってくる場所があって、僕は毎朝、バスを待つ親子と目を合わさないようにして通り過ぎていた。ある日、バスを待つ親子のなかに男の子と一緒にいるマユミちゃんの姿を見つけた。彼女は幼馴染で、小学校最後の二年間は同じクラスだった。草野球やドッジボールも一緒にやった仲のいい友達のひとりだ。男の子は彼女の子供らしい。1985年、小学六年の夏、僕は彼女と幻の湖をさがす旅に出た。僕らが暮らす町は山と海に囲まれていて、あの山の向こうに誰も知らない湖がある、というマユミちゃんの言葉を信じて、僕と彼女とその他二人(誰だか忘れた)はお菓子と水筒を入れたリュックサックを背負って湖を目指した。マユミちゃんは小さい頃からいつも僕より前を歩こうとしていた。僕はそれが気に入らなくて、いつも彼女
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