■戦後日本の繊細な鏡 新書の書名にデザイナーの固有名が冠される時代がきた。まず、こう感じる。デザインはそれほどの重要性をもつ、との表明である。 本好きならば、装幀(そうてい)者が誰だろうとか奥付や目次付近を探すときもあるだろう。このデザイナー名の記載もまた、半世紀近く前にさかのぼる杉浦の主張である。名前を出すのが目的ではない。杉浦は、それまでは画家の余技のようであった装幀を、ブック・デザインなる分野として確立し、同時に、商業美術的なデザインからブック・デザインを独立させた。 いまでは当たり前となっているブック・デザイン上の常識や手法の多くが杉浦に拠(よ)っている。いわば、杉浦の業績とともにデザインのインフラが整備されてきた。『季刊 銀花』『噂の真相』、カバーがクリーム色だった時代の講談社現代新書、角川文庫、『大辞林』『平凡社大百科事典』などが彼の仕事なのだから、読者の本棚にも杉浦デザインは