前回はGLOBALFOUNDRIESの発表会があったため特別編になったが、今回は元に戻って先端プロセスの続きを説明しよう。インテルが最近取り組んでいるNTV/STVを解説したい。
NTVはNear Threshold Voltageの略、STVはSub Threshold Voltageの略であるが、どちらも非常に有望な技術として各社が注目している技術である。特にインテルはこの分野ですでにいくつかの発表を行なっている。
電流が流れ始めるのに必要な電圧
スレッショルド電圧
まずはスレッショルド電圧(Threshold Voltage:しきい値電圧)についてだ。図1と図2は、MOSFETにおける電圧と電流の関係を示したものだ。図1の横軸はゲート/ソース間の電圧であるVg-s、縦軸はドレイン電流Idとなっている。
図1 MOSFETにおける電圧と電流の関係。横軸がゲート/ソース間の電圧(Vg-s)、縦軸がドレイン電流(Id)
グラフを見るとわかるが、ドレイン電流が流れ始めるにはある程度の電圧(図1のVth)が必要になる。このVth、つまり「ある程度の電圧」がスレッショルド電圧と呼ばれるものである。
スレッショルド電圧そのものは素材の種類や構造などで決まるものだが、実はボディー・エフェクトと呼ばれる仕組みを使うことでスレッショルド電圧そのものを変化させることも可能だ。だが、これはまた別の項目になるので今回は割愛する。
論理回路を組む場合、当たり前であるがゲートの電圧はVth以上でないと動作しないので、Vd-sはVthより高くする。どのくらい高くするかが、次に出てくる図2である。
図2 MOSFETにおける電圧と電流の関係。横軸がドレイン/ソース間の電圧(Vd-s)、縦軸がドレイン電流(Id)
図2は今度は横軸がドレイン/ソース間の電圧(Vd-s)で、縦軸はドレイン電流(Id)となる。今度はVg-sはVth以上である、という前提に立ってのものだが、そうなるとある程度の電圧までは、電圧と電流がほぼ比例関係にあるが、それを超えると電流があまり増えなくなる。
ここで前半を線形領域、後半を飽和領域と呼ぶのだが、安定して回路を構成するためには、線形領域よりも飽和領域を使う方が確実ということもあってか、Vd-sはやや高めに設定されていることが多い。
もっともこの「やや高め」が、昔は動作マージン確保のためもあってか、線形領域よりずっと高い電圧にVd-sが設定されていたのだが、消費電力削減のために段々線形領域に近づきつつあるのが昨今の状態である。
消費電力は、オームの法則により他の条件が同じであれば電圧の2乗に比例する。したがって、電圧を下げれば2乗の割合で消費電力が減ることになる。
ついでに言えば、電圧を下げるとリークも減る傾向にあるので、単に動作時の消費電力のみならずリークに起因する消費電力も一緒に削減できるため、電圧を下げるというのはトレンドになっている。
その電圧をどこまで下げられるか、ということでスレッショルド電圧ぎりぎりまで下げようというのがNTV、いやいっそスレッショルド電圧の下まで下げてしまえ、というのがSTVである。
図1では、Vthを下回ると電流が流れなくなるように見えるが、実はVthを下回っても電流は流れている。図1で縦軸は通常のスケールだが、これを対数スケールにすると図3になる。
図3 図1の縦軸を対数スケールにしたもの
Vg-sが0でも電流は流れているし、逆電圧をかけてもわずかに流れている。なぜ電流が流れるかは、バンド理論と呼ばれる量子力学を説明しないといけないのでここでは割愛するが、以下の2点だけを理解してもらえればいい。
- Vthを下回っても一応電流は流れる
- ただしVthのあたりでは、電流の変化量が指数級数式に変化するため、Vthを下回ると猛烈に電流量が減る
ちなみに、STVの領域における電圧と電流の傾きのことをスレッショルド・スロープ(Subthreshold slope)と呼び、理論限界が60mV/decadeとなっている(この話は後述する)。
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