家の近所にガールズバーがあることは知っていた。
まだ寒かった時期、薄着の上にアンバランスな分厚いダウンコートを着た若い女性が店先に立っているのを見たことがある。
建物の二階がガールズバーになっていて、外の階段を上がって店に入るようだ。
一階が何の店だったかは思い出せない。
この前通りかかったら、隣の建物が解体されていて、そのガールズバーの建物の側面が丸見えになっていた。
切妻屋根の上に、白く粉の吹いた瓦が不器用に並べられ、外壁には穴だらけのトタンがかろうじてへばり付いている。
基礎の表面に塗られているモルタルはひび割れ、ところどころ剥落している。
店頭では若い女の子のイラストが描かれた看板がペカペカと光っていた。
その光景を見たときは何とも思わなかったが、最近、寝るためにベッドに横になると、なぜかあのガールズバーが思い浮かぶ。
木造の建物の床の上を、若い女の子が靴を履いて歩く音が聞こえるような気がする。
客が足を組み替える、ゴツ、ゴツ、という踵の音。
木造家屋の湿った石膏ボードによって低くこもった嬌声が漏れ聞こえてくる。
塗装の剥げた軽量鉄骨の外階段を若い女性が上がって出勤してくる音が聞こえる。
ドアを閉めると隣のアルミサッシの窓がそれに応答するように震える。
薄いクッションフロアから、床板、根太、床梁を伝って自分の頬にかすかな振動が伝わってくる。
想像上の酔客の喧騒にたまらなくなり寝返りを打つと、そこは鉄筋コンクリートのマンションの一室で、その静寂に驚いて目が覚めてしまう。