私が派遣という働き方を選んで、たしか3社目くらいだったと思う。
配属先の総務部には7人くらい。
そのトップは、会長の愛人で、「ファウンダー」と肩書が入った名刺を持っていた。
上場前は取締役だったらしいけど、さすがにまずいってことで“降格”したらしい。
私がそこに入った理由は、「Nさんという社員が仕事を抱え込みすぎていて、業務が回らないから、あなたが業務マニュアルを作ってください」というものだった。
属人化の解消、というやつ。
でも実際には、そのNさんは、何かあれば自分でさっさと処理してしまうタイプだった。
トップが交代した。
友人関係でもあったらしいが、「お前は経営ができないだろ?」と、会長職に専念させる狙い。
けれど「誰でも何でもいいから聞かせて」と言われたので、ちょっと気になっていた点をいくつか話した。
その面談でまたいろいろ話していたら、
「よかったら、食事でもしながら聞かせてくれる?」と言われた。
でも待ち合わせに行ったら、完全に二人きり。
「いや、そういうのじゃないです」とやんわり断った。
けど、あれは完全にアウトな展開だったと思う。
実は当時、私は社内にいたある社員と付き合っていた。
でもその彼氏は、いわゆるモラハラ男で、少しでも機嫌を損ねると、連絡を絶つようなタイプだった。
そのことで悩んでいて、だいぶメンタルが削れていた。
判断力も落ちていたと思う。
でも、私は終了。
「いま担当している仕事の引き継ぎをお願いします」と言われた。
だから、私はグループ業務のほとんどを、前述の“全部自分でやっちゃうNさん”に引き継ぐことにした。
「Nさんが一番詳しいと思います」とだけ言って。
そして、月末を待たずにその週の金曜日で退社した。
その一年半後くらい、同僚だった子に会ったとき、いろんな話を聞かせてもらった。
ちょうどその頃に進めていた大きなプロジェクトが、取引先の都合であっさりと頓挫したらしい。
新社長と会長(=元の社長)との間で大揉めになり、結局、新社長は会社を去ったという。
病気もあったという話だが、それは定かじゃない。
一緒に株価を見てみたら、前週からさらに7%下がってて、彼女と大爆笑した。
「ざまあ」と思った。
会社はいまも一応残ってるけど、代表はまったく知らない人になってる。
創業者だった社長も、名前をググっても、まったくヒットしない。
“その道の天才”と呼ばれたらしいけど、何も出てこない。